月面着陸機「スリム」とエックス線天文衛星「クリズム」を搭載した大型ロケット「H2A」47号機が7日午前8時42分11秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。約14分後にクリズム、約48分後にスリムを所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。H2Aの後継機「H3」初号機が今年3月、電気系の異常で打ち上げに失敗しており、原因となった疑いがありH2Aと技術的に共通する要素について今回、絶縁処置などの対策を施した。
トラブル続く中、打ち上げ乗り切る
政府の基幹ロケットは昨年10月、小型の「イプシロン」6号機が打ち上げに失敗。H3初号機の失敗に続き、今年7月には開発中のイプシロン改良型「イプシロンS」の燃焼試験で爆発が起きており、トラブルが続いていた。技術の信頼性が問われる中、関係者は特段の緊迫を強いられる今回の打ち上げを乗り切った形だ。
打ち上げを実施した三菱重工業の江口雅之執行役員防衛・宇宙セグメント長は会見で「H3失敗もあり、非常にプレッシャーを感じて取り組んできた。成功してホッとしているとともに、H3の復活へと前向きに進む決意ができ、背中を押してくれる打ち上げとなった」と述べた。
基幹ロケット開発を主導する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「日本のロケット技術の信頼回復に向け、気を引き締め確実な対応を図っていく。(スリムとクリズムの)挑戦的なミッションを着実に進めたい」とした。
打ち上げは今年度初めを計画した後、H3失敗を受け、共通の問題がないかを調べる必要が生じ、8月にずれ込んだ。同26日に予定したが、悪天候のため延期を繰り返した。
H2Aの打ち上げは1月以来で、成功率は97.87%となった。2009~20年に運用し全て成功した「H2B」の9機と、失敗したH3初号機を合わせ、01年のH2A運用開始以降の国産大型ロケットの成功率は96.49%となった。
宇宙科学の進展の鍵握る
47号機が搭載した2つの機体はいずれも、宇宙科学の進展の重要な鍵を握る。
スリムは、これまで各国の月面着陸の位置の誤差が1キロ以上だったのに対し、独自技術で100メートル級を目指す。小型軽量の機体で目的地にピンポイントに着陸できるようにし、探査技術や効率を高める狙いがある。着陸は来年1~2月頃で、成功すれば日本初の月面軟着陸となる。開発費は約149億円(打ち上げ費用の一部と初期運用費用を含む)。
一方、インドは先月23日に「チャンドラヤーン3号」を史上初めて月の南極付近に軟着陸させ、旧ソ連(ロシア)、米国、中国に続く月面着陸国となった。ロシアも同11日に「ルナ25号」を打ち上げ、約半世紀ぶりの着陸を試みたが、制御不能となり月面に激突したという。
クリズムは、2016年に運用ミスで失ったエックス線天文衛星「ひとみ」の代替機。宇宙空間を吹く高温ガス「プラズマ」の成分や動きを測ることを通じ、100個程度以上の銀河の集団「銀河団」の成り立ちや、さまざまな元素の誕生などの解明につなげる。日米中心の計画で、開発費は約277億円(日本負担分。100億円規模とみられる打ち上げ費用を含む)。
H3失敗原因3つに絞り込み、全てに対策
H3初号機は3月7日に打ち上げられたものの、2段エンジンに着火せず失敗した。原因についてJAXAは先月23日、3通りのシナリオまで絞り込んだことを、文部科学省の小委員会に報告した。シナリオは(1)エンジンの着火装置でショートが発生した、(2)着火装置への通電で過電流が発生した、(3)計算機からの指示を受けてエンジン周りのさまざまな制御をする装置の2系統のうち一方で過電流が起き、トラブルに備えたもう一方にまで波及した――というもの。
このうち(1)と(2)はH2Aと共通、(3)はH3に固有の要因という。小委員会は報告内容を妥当と判断した。JAXAは今後、対策の有効性や背後の要因などを慎重に検証し、2号機の早期打ち上げを目指す。今回打ち上げたH2Aの47号機は共通する要因について、絶縁処置や検査強化などの対策を施している。
JAXAの岡田匡史H3プロジェクトマネージャは小委員会後、報道陣に「原因が合理的に詰められた。さらに絞り込む作業は可能な限り続けるが、全てはっきりするまで物事を進めないのは得策ではなく、合理的でないと判断した」と述べた。2号機は予定していた大型の地球観測衛星「だいち4号」ではなく、衛星のダミーを搭載する計画に変更した。これにキヤノン電子などの超小型衛星2基を、“失敗時の補償なし”を条件に無償で相乗りさせる。
関連リンク
- 三菱重工業「MHI打上げ輸送サービス」
- JAXA「H3ロケット」
- 文部科学省宇宙開発利用部会調査・安全小委員会
- JAXA宇宙科学研究所「SLIM PROJECT」
- JAXA宇宙科学研究所「XRISM-X線分光撮像衛星」
- JAXA「XRISM(クリズム)×SLIM(スリム)特設サイト」
- インド宇宙研究機関「Chandrayaan-3(チャンドラヤーン3号)」(英文)