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H3ロケット1号機打ち上げ失敗、宇宙開発に打撃 観測衛星だいち3号喪失

2023.03.07

 新大型ロケット「H3」1号機が7日午前10時37分55秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられたが、2段エンジンに着火できず、機体は安全のため、地上からの信号で指令破壊され失敗した。国産大型ロケットの失敗は2003年の「H2A」6号機以来。日本の22年ぶりの新大型ロケットはデビューからつまずき、宇宙開発利用に深刻な打撃となった。搭載した地球観測用の先進光学衛星「だいち3号」は失われた。

先進光学衛星「だいち3号」を搭載し打ち上げられるH3ロケット1号機=7日午前、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部 腰高直樹撮影)
先進光学衛星「だいち3号」を搭載し打ち上げられるH3ロケット1号機=7日午前、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部 腰高直樹撮影)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるとH3は、同センターの吉信第2射点から発射し、約5分後に1段、2段機体を分離した。ところが2段エンジン「LE5B3」に着火できず、衛星を所定の軌道に投入できる見込みがないと判断。打ち上げの約14分後に地上から機体に指令破壊信号を送った。計画では打ち上げの約17分後に高度約675キロで、だいち3号を地球を南北に回る軌道へと分離するはずだったが、失敗した。

 文部科学省とJAXAは同日、それぞれ対策本部を設置し、今後原因究明を進める。

 打ち上げ後に会見したJAXAの山川宏理事長は「搭載衛星の関係者、地元をはじめとする関係者、多くの国民の期待に応えられず深くお詫び申し上げる。原因究明に尽力し、ロケットの信頼性を回復する」と述べた。

 H3開発責任者のJAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャは「多くの方々に見守っていただいた中でこのような結果になり、申し訳ない。まずは原因を究明したい。影響を少しでも少なくするため、一日も早くリターン・トゥー・フライト(飛行再開)を目指したい」とした。

 原因について岡田氏は「まだロケットから送られたデータをくまなく見ているわけではないが、まず、機体本体の電子搭載機器からエンジンのそれ(信号)を受ける部分にかけてを、つぶさに見る必要がある」との見方を示した。

打ち上げ直後、上昇するH3ロケット1号機=7日午前、鹿児島県南種子町(腰高直樹撮影)
打ち上げ直後、上昇するH3ロケット1号機=7日午前、鹿児島県南種子町(腰高直樹撮影)

 2月17日の打ち上げ作業では、6.3秒前に1段エンジン「LE9」が正常に起動したものの、機体が異常を検知し、0.4秒前に予定していた固体ロケットブースターへの点火を自動で停止し中断した。原因は地上設備と機体の間の電源・通信系を遮断する際、電気のノイズが発生したためと判明。このノイズがコマンドとして検知され、LE9の制御機器に電源を供給するスイッチが切れ、打ち上げが中断した。JAXAは電源・通信系を時間差をつけて遮断してノイズを抑える対策を講じ、今月7日の再挑戦を迎えていた。

 H3は運用中のH2Aと、20年に終了した強化型「H2B」の後継機。性能向上と低コスト化を両立し、政府の衛星のほか近年、大型化が進んだ商業衛星を搭載できるよう開発した。地球観測や安全保障、測位、通信など官民の衛星利用は、H2Aが誕生した今世紀初頭から大きく進展している。H3がこれらをカバーし新たな主軸となる計画だが、失敗により先送りとなった。

 2段式の液体燃料ロケットで、機体構成により最大能力はH2Bの6トンを上回る、6.5トン以上(静止遷移軌道、赤道での打ち上げに換算)。JAXAと三菱重工業が共同開発し、これまでの開発費は2061億円。1段エンジンでは新方式となる「LE9」を開発するなどして効率化を進めており、H2Aの基本型で約100億円とされる打ち上げ費用を半減するとされてきた。当初は2020年度に初打ち上げの計画だったが、LE9に課題が見つかり延期していた。

H3打ち上げ後、報道陣に対応するJAXAの担当者=7日午前、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部 草下健夫撮影)
H3打ち上げ後、報道陣に対応するJAXAの担当者=7日午前、鹿児島県南種子町(サイエンスポータル編集部 草下健夫撮影)

 2024年度まで併存して運用する計画のH2A、小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットを構成。1、2号機は試験機としてJAXAが打ち上げ、早ければ3号機から三菱重工業に移管し、商業打ち上げ市場に参入する計画だった。科学目的の探査機、国際宇宙ステーション(ISS)や建設予定の月周回基地へ向かう物資補給機も搭載するべく開発してきた。

 日本の大型ロケットでは1998年、H2ロケット5号機の2段エンジンの燃焼時間が予定より短く、衛星を計画より低い軌道に投入。99年、同8号機の1段エンジンが異常停止し衛星の投入に失敗した。2003年にはH2Aの6号機が、固体ロケットブースターを正常に分離できず失敗している。今回の失敗によりH3とH2A、H2Bを合わせた大型機の連続成功は49回で途絶えた。

 小型のイプシロン6号機も昨年10月、打ち上げに失敗した。同機について、JAXAは2段機体の姿勢制御用のガスジェット装置に燃料を送る配管が、ゴム膜によりふさがったのが原因とみて、調査を進めている。

だいち3号の想像図(JAXA提供)
だいち3号の想像図(JAXA提供)

 喪失しただいち3号は、JAXAが2006~11年に運用した初代「だいち」の後継機で、カメラで陸地を観測する衛星。初代の観測幅を維持しつつ、分解能を同2.5メートルから0.8メートルに向上させていた。世界各地を継続して撮影し、防災や災害対応、地理情報の整備などに活用する計画だったが失われた。衛星開発費は280億円だった。

 だいち3号には防衛装備庁の実証用「2波長赤外線センサー」も搭載した。さまざまな熱源から出る赤外線を捉え、弾道ミサイルの発射探知など安全保障に役立つかどうかを検証する目的で、センサー開発費は48億円だった。

【動画】H3ロケット1号機打ち上げ(ノーカット)=腰高直樹撮影

◇7月19日追記
本文の一部を訂正しました。
1段落目
誤「17日」
正「7日」

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