リサイクルが困難な合成樹脂「ポリウレア」を水素で分解し、原料の化合物に戻す新しい金属触媒を、東京大学大学院工学系研究科の岩﨑孝紀准教授(有機合成化学)らが開発した。水をはじき摩耗しにくい性質から屋根や屋上駐車場の表面に使われている同樹脂が廃プラスチックとなった際、新触媒によるリサイクル促進が期待される。
ポリウレアを構成するウレアは、分子内に炭素と酸素の二重結合を持つカルボニル化合物の一種で、炭素が窒素化合物のアミンと結合している。水素と金属触媒によるカルボニル化合物の分解は、廃棄物を出さないクリーンな化学反応として注目されている。ただ、同化合物の反応性はケトンが最も高く、ウレアは最も低い。
岩﨑准教授らは、カルボニル化合物の分子内における炭素―酸素二重結合の電荷の偏りに注目。イリジウムの周りにリンや窒素などを配置した金属錯体を触媒として作製した。
作った触媒の機能を調べるため、有機溶媒にジフェニル尿素(ウレア)を溶かした中に水素と触媒を入れた。約130度、10気圧程度の条件では、ウレアの炭素―窒素結合の片方が切れて水素化され、ホルムアミドとアミンに分かれた。
岩﨑准教授によると、反応性の低いウレアの水素化分解は2011年ごろからルテニウムの触媒などで行われているという。この場合、ウレアより反応性が高いホルムアミドでさらなる水素化が進み、アミンとメタノールができるが、新触媒だとホルムアミドの水素化は進まなかった。
ウレアがアミドより反応性が高かったことから、2種類のカルボニル化合物混合物で水素化分解を試みた。その結果、ケトンには劣るものの、エステルとウレタンよりは反応性が高いことが分かった。触媒に含まれるイリジウムと窒素がウレアの炭素と二重結合した酸素と相互作用していることで、ウレアと優先的に反応するとの仮説が考えられるという。
研究チームでは、異なるアミンの結合によって非対称な構造をしたウレアでも、一方の炭素―窒素結合を選択的に切断できることも確認。岩﨑准教授は「2つの異なる炭素鎖が交互にウレア結合でつながった構造をしているポリウレア樹脂を今回開発した触媒で水素化分解する技術と既存触媒を組み合わせることで、水素分子の移動のみによるポリウレア樹脂のリサイクルの仕組みができる可能性がある」と話している。
研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業や、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)官民による若手研究者発掘支援事業、文部科学省科学研究費助成事業などの支援を受けて行い、6月12日付英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」電子版に掲載された。
関連リンク
- 東京大学プレスリリース「水素を用いたプラスチックのケミカルリサイクルへ新たな道」