群馬県高崎市で4月29日から開かれていた先進7カ国(G7)デジタル・技術相会合は30日、人工知能(AI)の適切な利用に向け、「責任あるAI」「信頼できるAI」の国際的な基準づくりを目指すことなどで合意し、59項目の閣僚宣言(共同宣言)とアクションプラン(行動計画)を含む5つの付属書を採択して閉幕した。
このG7会合は対話型の生成AI「チャットGPT」が世界的に急速に普及し、効率化などへの期待がある一方、情報漏えいなどへの懸念も指摘される中で開催された。会合はAIの政策と規制は民主主義的価値観に基づくべきとの考え方で一致。共同宣言で民主主義や人権を脅かす利用への反対も明示した。合意、宣言内容は5月19日から3日間、広島市で開かれるG7首脳会議に引き継がれ、首脳宣言に反映される見通しだ。
共同宣言は、前文でロシアのウクライナ侵攻を強く非難し、ロシア軍の即時、無条件撤退を求めて侵攻がデジタルインフラに与える影響に懸念を示した。また、デジタル化の急速な広がりによる格差への対処が必要で、発展途上国や新興国との協力を強化するとした。
次に国をまたぐデータ流通を円滑化して各国企業が国外で活動しやすくする「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」構想を取り上げ、この構想を促進、具体化するための枠組みを設立するとした。
安全で強靱(きょうじん)なデジタルインフラをつくるためには、地上だけでなく海底ケーブルなども用いた複層的なネットワークの維持が重要とし、安全かつ強靱な国際通信インフラを確保することも盛り込んだ。
また、自由、オープンで分断のないインターネットの推進が重要と指摘し、政府によるインターネットの遮断や制限を非難。民主主義と開かれた社会の理念を損なう外国からの情報操作や干渉、偽情報などの脅威から民主主義的制度と価値を守ると強調している。
共同宣言は、生成AIのような新興技術の普及に伴う課題も重要テーマとしている。ここでは、急速なイノベーションはさまざまな課題に対応できる一方、誤用への対処を含む社会的影響の検討も必要と指摘。「イノベーションの機会の活用」「法の支配」「適正手続き」「民主主義」「人権尊重」の5原則を運用するとした。
さらに、「責任あるAI」「信頼できるAI」というキーワードを用いて「人間中心で信頼できるAIを推進し、AI技術がもたらす全ての人の利益を最大化するための協力を促進し、民主主義の価値を損ない、表現の自由を抑圧し、人権を脅かすようなAIの誤用・乱用に反対する」と明記している。
そして国際的な標準化組織を通じて信頼できるAIツール開発をし、国際的な技術基準の策定を促すことを宣言した。
G7デジタル・技術相会合は共同宣言とは別に今後の取り組みを示した「安全で強靱なデジタルインフラ構築」「自由で、オープン、グローバルで分断のない信頼性がある相互運用可能なインターネットの維持・推進」「AIガバナンスの相互運用性の促進」という3つの行動計画もまとめ、それぞれ付属書3、4、5として採択した。
DFFT構想は日本政府が2019年1月にスイス・ジュネーブで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で提唱し、同年6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の首脳宣言に盛り込まれた。日本は今回のデジタル・技術相会合の議長国としてこの構想をテーマの1つに設定。2日間の議論を先導し、同構想に基づく国際的な枠組み設立を共同宣言に盛り込んだ。
G7デジタル・技術相会合には議長国日本の政府から西村康稔経済産業相、河野太郎デジタル相、松本剛明総務相の3閣僚が出席。G7加盟の米国、フランス、英国、ドイツ、イタリア、カナダ各国と欧州連合(EU)の担当大臣・大臣級が出席した。またインド、インドネシア、ウクライナの政府担当幹部が招待された。
会合閉幕後に記者会見した松本総務相は、5月19日から広島市で開かれるG7首脳会議での議論を念頭に「責任ある形で生成AIの可能性についてG7として議論を加速、認識を共有し、G7として向かうべき方向を示して力強いメッセージを発信していくべきと考えている」などと述べた。
関連リンク
- G7デジタル・技術相会合の公式サイト
- G7デジタル・技術相会合の開催結果