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H3ロケット、初号機打ち上げ再延期 主エンジンに新たな課題

2022.01.24

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、今年度に予定していた開発中の大型ロケット「H3」の初号機打ち上げを延期すると発表した。延期は2回目で、新たな打ち上げ時期は未定。主エンジン内に異常な振動が生じる課題が新たに判明し、解決に時間を要するため。搭載予定の地球観測衛星の打ち上げも延期となる。

H3ロケットの想像図(JAXA提供)

 2020年5月に行った第1段エンジン「LE9」の燃焼試験で、燃焼室の内壁に微細な穴が14カ所空き、また燃料の水素を燃焼室に送り込むターボポンプの羽根2枚にひびが入ったことを確認。同年9月、初打ち上げを同年度から今年度に延期することを決め、原因究明や対策を進めてきた。

 燃焼室の穴は、燃焼中に高温を繰り返すことで内壁が変形して生じたことが判明。温度を抑えるなどして対策を確立した。ターボポンプの羽根は特定の状態で振動が増幅する「共振」が原因であることが判明し、羽根の設計を変更して解決した。

 ところが、ターボポンプ内のタービンの土台部分に異常な振動が生じていることが、新たに発覚。また並行して、酸化剤として用いる酸素用のターボポンプも調べたところ、別のタイプの振動が判明した。これらを解決して設計を確定する必要があるため初打ち上げの延期を決め、21日に発表した。

H3の開発はエンジン以外、順調という。初号機は昨年3月、打ち上げ設備を組み合わせ、作業手順を確認する試験を行った。機体上端の黒い部分は、塗装していない試験用衛星カバー=鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

 JAXAの山川宏理事長は「計画通り打ち上げられないことを大変重く受け止めている。確実な打ち上げのためには必要な措置。関係者一丸となって残りの開発を進めていく」とコメントした。

 オンラインで会見した岡田匡史プロジェクトマネージャは「エンジン開発の全体からすると、あと一歩。慎重かつ確実に仕留めないといけない。皆目見当がつかないという状況ではない。技術に向き合い、志は変わらず、一点の曇りもなく打ち上げの日を迎えたい」と述べた。

 政府が昨年12月に改訂した宇宙基本計画工程表によると、H3は今年度に初号機で先進光学衛星「だいち3号」を搭載し打ち上げる予定だった。来年度には2号機以降で、先進レーダー衛星「だいち4号」、Xバンド防衛通信衛星3号機のほか、国際宇宙ステーション(ISS)の物資補給機「HTV-X」初号機を計画。これらについて岡田氏は「(だいち3号は)引き続きH3で打ち上げることについて調整を進めている。H3の2号機以降も(衛星の関係者らに)誠意を尽くして説明し調整する」とした。

 同工程表では、H3と現行機の「H2A」が2023年度までは併存する計画で、人工衛星ごとにいずれかのロケットを割り当てている。またH3を共同開発する三菱重工業は2018年12月、英国の移動体衛星通信サービス大手インマルサット社の衛星を来年以降、H3で打ち上げることで合意している。

 H3はH2Aと、2020年5月まで運用した強化型「H2B」の後継機。衛星の大型化や、世界市場の費用低減に対応するため開発を進めている。H2Aなどと同じく液体燃料を用いる2段式だが、第2段エンジンで用いてきた日本独自の燃焼方式「エキスパンダーブリード式」をLE9に初採用する。従来の「2段燃焼式」に比べ、燃費をわずかに犠牲にする代わりに部品数を大幅に減らし、仕組みや制御を簡素化。H3の低コスト化の切り札とする狙いがある。

 新技術や自動車用などの民生品の導入も進め、H2Aの基本型で約100億円とされる打ち上げ費用の半減を目指す。最大能力(静止遷移軌道)はH2Bの6トンを上回る、6.5トン以上となる。

H3はLE9を2~3基備える。写真は3基を、ロケットの機体を模した装置と組み合わせた燃焼試験=2020年1月、秋田県大館市の三菱重工業田代試験場(同社提供)

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