史上最小の機体での月面着陸に挑んだ実証機「オモテナシ」(OMOTENASHI)について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は22日、着陸を断念したと発表した。米国のロケットから分離後、機体が太陽光を捉える姿勢を取れず、必要な電力を確保できないまま失敗に終わった。
オモテナシは無人試験飛行の米宇宙船に相乗りする形で、米大型ロケット「SLS」初号機に搭載され、日本時間16日、米フロリダ州から打ち上げられた。宇宙船に続いて分離したものの、機体の太陽電池のある面が太陽に背を向けたまま、高速で回転していることが判明。電池が太陽に向くよう、ガスジェットを噴射して回転軸の変更を試みた。しかしその後も電圧が不足し、電波の送信が停止。搭載機器自体は故障していないとみられ、姿勢の安定を目指した。
運用チームは計画していた秒速50メートルほどの月面衝突ではなく、22日午前1時ごろの月最接近に合わせ、自由落下で激突させる準備も進めた。しかし同2時までに地上で電波が受信できないまま月を通り過ぎ、着陸を最終的に断念した。
失敗を受けJAXAは「目的の一つである着陸を果たせなかったが、航行中に可能な地球磁気圏外での放射線環境測定のほか、着陸以外の技術実証を目指し、引き続き復旧作業を実施していく」とした。来年3月頃から電池に太陽光が当たる可能性があり、うまくいけば、こうした測定や機体を使った実験を行う。また今月22日、原因究明などを行う対策チームを設置した。
オモテナシのチーム長を務めるJAXA宇宙科学研究所の橋本樹明(たつあき)教授は同日午後に会見。「何年も取り組み、期待の高かった着陸が実現できず大変申し訳ない。着陸実験の成功確率は60%程度と考えていたが、その実験手順にすら進めず大変残念。今後、機体が復帰すれば、できる実験を頑張りたい」と述べた。
オモテナシは小包サイズで重さ12.6キロ。2015年に米航空宇宙局(NASA)がSLSに相乗りする複数の機体を募集し、JAXAがこれに応じて開発した。超小型機体による低コストでの月の科学研究、利用に道を開くと期待された。海外のロケットに頼り、アポロなどのようにゆっくり降り立つ軟着陸ではないものの、“日本初の月面着陸”がかかった機体ともいわれた。英字表記のOMOTENASHIは「Outstanding MOon exploration TEchnologies demonstrated by NAno Semi-Hard Impactor」の頭文字に由来する。
JAXAは来年度、精密着陸技術の実証機「スリム」を国産大型ロケット「H2A」で打ち上げ、日本初の月面着陸に挑む。一方、宇宙ベンチャーのアイスペース(東京)は今月17日、月面探査計画「ハクトR」の着陸機を米民間ロケット「ファルコン9」で28日に打ち上げると発表した。順調にいけば着陸は来年4月末で、世界初の民間による月面着陸がなるか注目されている。
関連リンク
- JAXA「OMOTENASHI(オモテナシ)」
- ツイッター「OMOTENASHI Project」
- JAXA「小型月着陸実証機SLIM(スリム)」
- アイスペース「HAKUTO(ハクト)-R」