クッキーなどの食品の中に、見た目では分からないように情報を埋め込み、食べられる状態で読み取ることに成功した、と大阪大学の研究グループが発表した。食材を設計通り立体造形する「フード3Dプリンター」を使ってパターンを入れて作り、背後から光を当てて読み取った。世界初とみられるという。賞味期限などはパッケージに書かれているが、食品の見た目を損なわずに埋め込まれていれば安全につながり、新たな楽しみに応用もできるという。
食品そのものに賞味期限や産地、アレルゲンなどの情報があれば、開封して取り出した後でも、食べる時まで確認できる。一方、近年は技術を食品に応用する「フードテック」の分野でフード3Dプリンターが注目されている。食品の内部構造まで高い自由度で設計できる。
そこで研究グループは、情報入りクッキーを作ることを試みた。クッキーの内部に色違いの生地を配置したり空間を作ったりして、2次元コードやARマーカーを入れることを考えた。生地を焼き上げても内部の情報パターンが表面に出ず、食感や強度にも大きく影響しない内部構造を追究。生地は市販品を用いた。
焼き上げたクッキーに背面から光を当て、内部のコードを表面に浮かび上がらせ、撮影して読み取った。当てる光には市松模様のパターンがあり、クッキーへの当たり具合を変化させた。こうして内部の光の散乱を変えて計算し、コードを読み取れるか調べた。
空間によって2次元コードを作る実験では、元のコードの黒い部分を単に空間にしただけでは、クッキーを焼いた時に表面に目立つ凹凸が出て、読み取りもできなかった。焼いた時に生地が膨らむのを抑えるため底に細かい穴を開ける工夫をすると、読み取れるものの表面に多少目立つ凹凸が出た。空間を支える細い支持構造をつけると、凹凸は抑えられたが読み取れなかった。支持構造を大きな空間だけにつけると凹凸は目立たず、読み取りもできる最良の結果となった。
コードには256ビット、英文字32個分の情報を盛り込めた。クッキーのほか、豚肉ミンチを使ったハンバーグ状のものでもコードを読み取れた。和菓子の餅、チョコレートなどはうまくいかなかった。美味を期待しクッキーにゴマを入れようとしたが、プリンターのノズルが詰まってしまった。
食品にコードを埋め込めば、生産や流通を追跡する「トレーサビリティー」に役立つなどして安全性を高められる。作り手が薦める食べ合わせの情報を入れたり、ネットに接続したコーヒーメーカーでその食品を味わうのに最適な温度や濃さでコーヒーを自動で入れたりするユニークな活用も期待できるという。研究グループの大阪大学大学院基礎工学研究科の岩井大輔准教授(拡張現実感)は「ARマーカーを入れグラフィックスを投影するなど、食のエンターテインメントにつながる可能性もある」とする。
パリンヤ・プンポンサノン助教(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)は「クッキー生地の条件を変えて実験を繰り返し、ようやく実現した。データ埋め込みを使った未来の食体験をいろいろ想像してほしい」と述べている。
成果は査読を経て、米オレゴン州で開かれるユーザーインターフェースに関する米計算機協会のシンポジウムで、現地時間11月2日に口頭発表する。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けた。
関連リンク
- 大阪大学などプレスリリース「食べられるデータの埋め込みを実現! フード3Dプリンタで食品内部に2次元コードなど 食品のDXのための新技術」