食べられる素材だけを使って家畜の培養肉を作ることに、国内の研究機関で初めて成功した、と東京大学と日清食品ホールディングスの研究グループが発表した。海外のミンチ肉とは異なり、ステーキ肉を目指すもの。試食して評価できるようになり、実際に関係者が味わった。おいしさを求める研究に弾みがつき、味や食感が楽しめる「培養ステーキ肉」の実現に近づく成果という。
培養肉は、家畜の肉の細胞を体外で組織培養して作る。人口増加や生活状況の変化で世界の食肉消費の増加が見込まれる中、新たな選択肢として期待される。研究グループは2017年度から共同研究。19年には牛肉由来の筋細胞から1辺が7ミリ~1センチ角のサイコロステーキ状の立体筋組織を世界で初めて作製した。
海外では培養したミンチ肉が既に市販されているのに対し、研究グループはステーキ肉を目指す。培養肉の作製には一般に(1)基となる細胞に加え、(2)細胞を育てるための栄養成分、(3)立体筋組織の作製に必要な細胞の足場材料--の3要素が必要。従来は(2)と(3)に食用ではない素材を使って研究してきたため、試食できなかった。
そこで研究グループは食べられる素材作りに挑戦。(2)の栄養成分である培養液に成牛の血清を使うと、細胞が培養できることを発見。また(3)の足場材料として成牛の血液を基に、食用血漿(けっしょう)ゲルを独自開発した。食用可能なこれらの素材により、細胞の生育に適した条件で肉を培養できた。動物の素材を使わない「アニマルフリー」を志向するが、過渡期のため食肉処理で生じる成牛の血液を使うことにしたという。
一方、東京大学の倫理審査専門委員会は培養肉を実際に食べるまでの過程を承認した。こうして素材と制度という研究上の2課題を解決した上で、国内で初めて食べられる培養肉を作製。3月末に関係者の試食にこぎ着けた。
試食した研究グループの東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授(バイオエンジニアリング)は「思ったよりも歯応えがあった。脂肪や鉄分が含まれていないため、まだ肉の風味は感じられないが、噛むうちに旨味(うまみ)が出てきた。この味が何に由来するのか、どうすれば肉の味が出てくるのか、作製の条件を変えるなどして突き止めたい」と述べている。
今回の肉の厚さは1ミリと、まだしゃぶしゃぶ肉のようだが、2025年には2センチのステーキ肉を目指す。竹内教授は「実用化に向け課題は3つ。おいしく、安くする技術的課題と、社会に受容される文化的課題、安心して食べるための規制などのルール作りだ。食肉消費の増加や環境問題に対し、培養肉は選択肢の一つとして、生産技術の確立を目指していく」という。
成果は日本再生医療学会総会で3月17日に発表し、東京大学などが31日に発表した。研究は科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業の支援を受けている。
関連リンク
- 東京大学などプレスリリース「日本初! 『食べられる培養肉』の作製に成功」