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南海トラフ、「最大」宝永地震を上回る津波あった 産総研など証拠発見

2022.09.27

 南海トラフ沿いで史上最大とされてきた宝永地震(1707年、マグニチュード8.6)のものよりも大きな津波が、過去に紀伊半島を襲ったことを突き止めた、と産業技術総合研究所などの研究グループが発表した。和歌山県串本町の名勝「橋杭岩(はしぐいいわ)」周囲の巨石の状況やシミュレーションを基に結論付けた。過去の津波と同程度のものは今後も発生し得ると考えるべきで、古地震の解明を基に、地震や津波防災の重要性を再認識する成果となった。

橋杭岩。岩柱が直線上に並び、その西側(左)には同じマグマでできた巨石が多数散らばっている=和歌山県串本町(産業技術総合研究所提供)
橋杭岩。岩柱が直線上に並び、その西側(左)には同じマグマでできた巨石が多数散らばっている=和歌山県串本町(産業技術総合研究所提供)

 南海トラフ沿いでは歴史上、昭和東南海地震(1944年)、昭和南海地震(46年)など大きな地震や津波が繰り返しており、大規模地震の発生が懸念されている。南海トラフのほぼ全域が滑った宝永地震は史上最大とされてきた。ただ、宝永のものよりも大きな津波があったかについて、詳しい研究はされていなかったという。

 そこで研究グループは、岩柱が海岸付近の南北約850メートルにわたり直線状に並ぶ、橋杭岩に着目した。上昇したマグマが軟らかい泥岩の地層に貫入し、その部分だけが波の浸食に耐えて残ってできたもの。陸側の平坦な地形には、橋杭岩と同じマグマでできた巨石が1000個以上散らばっており、橋杭岩から分かれたと考えられる。巨石の分布状況などから、単に落下しただけでなく津波や高潮で運ばれたものと、研究グループは過去に指摘している。

 1311個の巨石の位置や大きさを調べた。長径は最大7メートル。橋杭岩から十分離れた15メートル以遠にある1103個の巨石を対象に、宝永地震の津波で動くかを分析した。この地震の3つの断層モデルを使い、シミュレーションで津波を起こして高さや流速を計算。海水からの流体力、地面との間に働く最大静止摩擦力を踏まえて判定した。その結果、全てのモデルで多くの巨石が動くものの、特に大きなものなど、一部は動かないことが分かった。つまり、宝永地震のものよりも大きな津波が過去、この地域を襲ったことを突き止めた。

 なお、全ての巨石が動くには、宝永地震で滑ったプレート境界に加えて沖合の分岐断層が大きく滑ることや、宝永地震の断層面上が2倍を超えて大きく滑ることなどが考えられる。ただ、橋杭岩のみの研究では原因の議論が難しい。今回明らかになった津波は、政府の南海トラフ巨大地震の被害想定を見直すべき規模のものではないという。

巨石の周囲は長い年月をかけ波で削られているが、巨石の下だけが残って台座のようになっている(産総研提供)
巨石の周囲は長い年月をかけ波で削られているが、巨石の下だけが残って台座のようになっている(産総研提供)

 津波ではなく台風の高潮による可能性も検証した。巨石の周囲の泥岩は長い年月をかけて波で削られているが、巨石の下だけが残って台座のようになっている。この状況から、巨石が毎年の台風の高潮では動かず、長期間にわたり移動していないことが分かる。また、この地域で観測史上最大級の潮位の上昇があった2012年の台風17号の前後で、大半の巨石は動いていなかった。1976年と2007年の航空写真を比べても、大きなものは動いていなかった。

 巨石の分布と津波の計算から地震を推定した研究は多いが、巨石を作った母体の岩石(ここでは橋杭岩)が特定できているものは珍しい。研究グループの産総研活断層・火山研究部門海溝型地震履歴研究グループの行谷佑一主任研究員(古地震学)は「今後はこの巨大津波がいつ襲ったのか、地質試料の年代測定などを通じ解明したい。橋杭岩周辺以外でも、南海トラフ沿いで宝永地震を超える規模の津波の証拠を探し、検証していく」と述べている。

 研究グループは産総研、法政大学、株式会社環境地質で構成。成果は固体地球物理学の国際誌「テクトノフィジックス」電子版に6日掲載され、産総研が12日に発表した。

研究成果のまとめ(左上の震源域図は地震調査研究推進本部の資料から=産総研提供)
研究成果のまとめ(左上の震源域図は地震調査研究推進本部の資料から=産総研提供)

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