火山の地下水が温められ上昇して噴出する「水蒸気噴火」は、地表付近の冷たい地下水が特有の移動をした場合に起きることを発見した。九州大学などの研究グループが、霧島連山の硫黄山(宮崎県)の土地を流れる微弱電流などの観測から突き止めた。冷たい地下水が噴火の鍵を握っているとみられ、電流観測が噴火の直前予測に役立つ可能性があるという。
水蒸気噴火は地下水がマグマに間接に温められて起こる。火山の浅い所の現象で、予測が難しいとされてきた。前兆のような地震が増えても、多くの場合は実際に噴火しない。逆に、地震が増えないまま突然に噴火することもある。
一方、水蒸気噴火の数分前、火口付近が地震と共に盛り上がる現象が近年、御嶽山(長野、岐阜県)、本白根山(群馬県)、霧島硫黄山などで観測されている。「傾斜変動を伴う微動」と呼ばれ、熱水が地下の浅い所に上昇して起きるようだ。ただこの現象は、噴火が起きなくても頻繁に起こる。噴火の発生を左右しているものは未解明だった。
こうした中、研究グループは2018年4月に水蒸気噴火をした霧島硫黄山の、13年3月から噴火まで5年間の観測データを詳しく調べた。噴火地点から2.2キロ以内の地震、地盤変動、土地を流れる微弱電流「地電流」を基に、噴火した場合と、前兆のような変動をみせながらも噴火に至らなかった場合を比べた。この期間に傾斜変動を伴う微動が13回起き、うち最後の1回だけが噴火に至っている。
地電流にはさまざまな原因があり、地下水が流動することでも発生する。液体同士の運動により電位差が生じる「界面動電現象」による。地下水の動きを推定する唯一の方法とされる。
分析の結果、傾斜変動を伴う微動が起こると、地電流が必ず変化することを発見した。その変化の方向を手がかりに、浅い所の冷たい水が、上昇した熱水の方へ移動したと推定できた。これにより熱水が冷やされ、噴火を免れたとみられる。
噴火した時は、地電流が、観測点と噴火地点を結ぶ方向に大きく変動していたことも分かった。冷たい水が噴火地点へ大量に流れ込んだためと考えられる。この噴火では、傾斜変動を伴う微動が始まって5分後に地表に新たな噴出孔ができ、さらに5分後に爆発と呼ぶべき激しい噴出が起こった。爆発時は地電流の変動がピークから少し下がり始めたところだった。
このことから研究グループは、冷たい地下水が流れ込んで熱水を冷やすものの、その量が限界に達し、冷やしきれなくなって爆発したと結論づけた。水蒸気噴火の仕組みとして提唱するという。傾斜変動を伴う微動が起こっても多くの場合、冷たい水が熱水を冷やして噴火を防いだと考えられる。
2014年の御嶽山の水蒸気噴火では、火口周辺にいた多くの登山者が巻き込まれた。地盤変動と地電流を手がかりに、数分前でも水蒸気噴火の前兆を捉え、即座に警報ができれば、人命を守るのに有効という。
研究グループの九州大学地震火山観測研究センターの相澤広記准教授(地球電磁気学)は「この研究の手法は、水蒸気噴火の直前予測に役立ちそうだ。他の山でも地電流観測の有効性を示し、将来的に気象庁などの観測項目に加わることを目指したい。火山での地電流の連続観測はほとんど行われていないが、電極と電線、記録装置があればよく、安価で簡便だ」と述べている。
研究グループは九州大学、東京大学、鹿児島大学で構成。成果は英地球惑星科学誌「コミュニケーションズ・アース・アンド・エンバイロメント」に8月22日掲載され、九州大学が29日に発表した。
関連リンク
- 九州大学プレスリリース「水蒸気噴火発生のカギは地下水の特異な動きにあることを発見」