新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチンを接種する意向がなかった人の7割は、1年間で接種する積極姿勢に転じたことが、国内2万人の追跡調査で分かった。慶応大学などの研究グループが発表した。接種の社会的意義を認識したことなどが要因。その半面、「接種する」とした人のごく一部は「していない」「分からない」と消極的になった。こうした分析は、接種の理解や普及に役立つ可能性がある。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国で初報告され、世界的に流行。今年に入り国内で拡大中のオミクロン株は感染力が強く、感染拡大や重症例の増加が懸念されている。治療法開発や治療薬の安定供給が課題となる中、ワクチンの接種は有効な対策の一つだ。2回接種完了は国民の約81%、3回は約63%と、まだ普及の余地がある。
接種意向や要因の研究は多いが、長期に接種経験やその後の意向を捉えた研究は世界的にもほとんどないという。そこで研究グループは国内の20歳以上を対象に、接種意向の大規模なオンライン調査を、医療従事者や高齢者以外も含む一般接種が始まる前の昨年2月と、3回目の一般接種が始まっていた今年2月の、2回行った。2回目の追跡調査では1万9195人から回答を得た。
その結果、初回調査で「接種しない、分からない」とした8077人の72.6%にあたる5861人が、1年で「接種した、するつもり」に変化していた。このうち「接種しない」だった人の46.9%、「分からない」だった80.9%が変わっていた。
このタイプの回答者について、変化の主な要因をグループ分けして分析したところ、「接種の社会的意義を認識した」の割合が最大で、ほか「接種の利点を認識した」「身近な人の接種状況を知った」「ワクチンの短期的な副反応や安全性に対する不安が払拭された」「仕事や人間関係の都合」に分けられた。
なお米国やオーストラリアの研究では、医療従事者による接種の勧めが心変わりに重要な役割を果たしたとされたのに対し、この研究では、その要素ははっきりとは認められなかった。研究グループの慶応大学医学部の野村周平特任准教授(保健政策学)は「日本人は医師の推奨だけによらず、複数の情報から判断する傾向があるのではないか」とみている。
一方、初回に「接種する」とした1万1118人のうち3.9%にあたる434人は、1年後に「接種していない、するか分からない」に変わった。その背景要因を分析すると「未婚」「健康状態が悪い」「インフルエンザのワクチンを例年、接種していない」「新型コロナの感染歴がある」「新型コロナの検査を受けたことがない」「新型コロナの感染対策をしていない」、雑誌や動画共有サイトを情報源にしていること――などを見いだした。
2回目の調査では、ワクチン接種や陰性証明の有無に応じて、活動制限が変わることに対する意見も聞いた。「接種した、するつもり」の49.3%が賛成、9.1%が反対、41.7%がどちらとも言えないと回答。一方、「接種していない、分からない」の9.6%が賛成、44.5%が反対、45.8%がどちらとも言えないとした。
研究グループは、接種に対する意識変化の分析が、接種を促進する上で重要とみている。野村氏は「情報発信のあり方が大切だ。接種の有効性だけでなく副反応などの安全性のことも含め繰り返し、丁寧に出し続ける必要がある」と述べている。
研究グループは慶応大学を中心に日米の大学や研究機関、病院で構成。成果は英医学誌「ザ・ランセット・リージョナル・ヘルス ウエスタン・パシフィック」の電子版に7月21日に掲載された。
関連リンク
- 慶応大学プレスリリース「新型コロナワクチン接種意向の心変わりのワケ、その特徴が明らかに」
- 首相官邸「新型コロナワクチンについて」