ニュース

唾液中のタンパク質にコロナ感染防止効果 大阪公立大が解明

2022.07.21

 唾液の中に含まれる特定のタンパク質に新型コロナウイルスの感染を妨げる働きがあることが分かった、と大阪公立大学の研究グループが発表した。年を取って唾液の分泌量が減ることが、高齢者の重症化しやすさに関係している可能性があるという。研究グループは感染予防薬や治療薬の開発につなげたいとしている。

 新型コロナウイルスは表面のスパイクタンパク質がヒト細胞の細胞膜にある「アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)」受容体と結合して人体内に入る。

 大阪公立大学大学院の獣医学研究科松原三佐子准教授と医学研究科の吉里勝利特任教授らの研究グループは、20~70代の健康な7人の唾液の検体を使って、唾液の有無や濃度がスパイクタンパク質とACE2の結合にどのように影響するか調べた。

 実験は新型コロナウイルスと感染の仕組みが同じ別のウイルスの実験系(S1-ACE2結合アッセイ系)を使用。唾液の希釈率を0.25%から2%まで濃度を高めて実験した。すると、唾液の濃度が高くなるほどスパイクタンパク質とACE2が結合しにくくなることを確認できた。

各検体(D1~7)について、唾液が低濃度から高濃度になるほど(青色の三角で示す)、スパイクタンパク質とACE2が結合しにくくなった(大阪公立大学提供)
各検体(D1~7)について、唾液が低濃度から高濃度になるほど(青色の三角で示す)、スパイクタンパク質とACE2が結合しにくくなった(大阪公立大学提供)

 さらに唾液からACE2と結合する好中球エラスターゼ、ディフェンシン-1、リゾチーム C、ヒストンH2Aという4種類のタンパク質を特定。中でも好中球エラスターゼとヒストンH2Aの2つがACE2と結合し、ウイルスのスパイクタンパク質がACE2と結合するのを妨げる働きが特に強かった。リゾチーム Cはその働きが弱かった。

唾液中にある4つのたんぱく質がウイルススパイクタンパク質とACE2との結合を阻害する働きがあることを示す実験結果(大阪公立大学提供)
唾液中にある4つのたんぱく質がウイルススパイクタンパク質とACE2との結合を阻害する働きがあることを示す実験結果(大阪公立大学提供)

 好中球エラスターゼとヒストンH2Aは2つともプラスに帯電しており、塩基性が強いタンパク質。研究グループは健康な人の唾液中の好中球に関連するタンパク質がACE2の分子表面を覆うことにより、ウイルスの侵入に対する障壁になり得ると結論付けた。

好中球エラスターゼとヒストンH2Aが新型コロナウイルスの侵入を防ぐ仕組みの概念図(大阪公立大学提供)
好中球エラスターゼとヒストンH2Aが新型コロナウイルスの侵入を防ぐ仕組みの概念図(大阪公立大学提供)
ヒストンH2Aが疑似新型コロナウイルスの感染を防ぐことを示す実験系の画像。ヒストンがない場合(-、左)は緑色で示した宿主細胞の感染が多く見られ、ヒストンがある場合(+、右)はACE2が発現した赤色の宿主細胞だけで占められて感染がほとんどないことが分かる(大阪公立大学提供)
ヒストンH2Aが疑似新型コロナウイルスの感染を防ぐことを示す実験系の画像。ヒストンがない場合(-、左)は緑色で示した宿主細胞の感染が多く見られ、ヒストンがある場合(+、右)はACE2が発現した赤色の宿主細胞だけで占められて感染がほとんどないことが分かる(大阪公立大学提供)

 研究グループの別の実験で、塩基性が強く、細菌の発酵産物であるε-ポリ-L-リジンなどは、スパイクタンパク質とACE2の結合を強力に防ぐ働きがあることも判明。同グループはε-ポリ-L-リジンのようにプラスに帯電し、スパイクタンパク質とACE2の結合を阻害する物質を使うことで、新型コロナウイルスの侵入を防ぐ薬の開発につながる可能性があるとしている。

 吉里勝利特任教授は「唾液の中に新型コロナウイルスの侵入を防ぐ仕組みがある可能性が出てきた。今回の研究成果を基に感染予防薬や治療薬の開発に貢献していきたい」とコメント。また松原准教授は「唾液が持つ自然免疫力をもっと評価すべきだろう。口腔内のケアを推奨し、唾液の質を上げるような(コロナ感染)予防法の開発も目指したい」と話している。

関連記事

ページトップへ