液体燃料を高分子の小さなゲルに混ぜ込んで分子を結合させると、蒸発しにくくなって爆発や火災の危険を抑えられ、かつ燃料単体の場合の燃焼特性をほぼ保つことが分かった。芝浦工業大学と東京工業大学の研究グループが発表した。エンジンやタービン、ボイラーなどに使う液体燃料の安全性向上につながる成果となった。
液体燃料にはガソリンや灯油、軽油、重油などの石油の仲間、エタノールやメタノールといったアルコールの仲間などがある。ガスタービンやボイラー、自動車やロケットのエンジンなど、化学エネルギーを運動に変換する形で広く利用されている。ただエネルギー密度が高く揮発しやすいものは、取り扱いに注意が必要。漏れ出すと引火性の高い可燃性ガスが生じ、爆発や火災などの重大事故につながる。燃料を添加物でゲル化させたゲル化燃料が検討されているが、長期保存に向かない問題があるという。
そこで研究グループは、エタノールを高分子のゲルに含ませ、蒸発や燃焼の仕方を検証した。「N-イソプロピルアクリルアミド」と呼ばれる高分子のゲルの球を作り、エタノールに漬けることで混ぜ込んだ。この状態は、ゲルの隙間にエタノールが染み込んでいたり、ゲルを割ると中からエタノールが流れ出てきたりするものではなく、高分子とエタノール分子が物理的相互作用で結合しているという。体積ベースで約95%のエタノールを含んだ。
まずエタノールの蒸発を常温常圧で調べたところ、直径7.2ミリのゲルでは10時間以上かかった。同じ表面積と質量のエタノール単体では30分あまり。ゲルに混ぜこむと15倍以上時間がかかることが分かった。ゲルは無数の高分子が鎖のように三次元につながってできており、この鎖がエタノール分子と結合することで、エタノールの蒸発を抑えていると考えられる。
さらに、ゲルに着火して燃焼を検証した。すると、まず主にエタノールが燃焼し、次にエタノールとゲルの高分子が共に燃焼するという、2段階の過程が観察された。前者はエタノールが単体で滴(しずく)の状態で燃焼する場合とよく似た特性を示した。後者は燃焼速度がやや低下した。
液体燃料の実利用の規模では未検証だが、小さな高分子ゲルに混ぜ込むと安全性を高めつつ、燃焼特性をほぼ維持できることを実験で突き止めた。
研究グループの芝浦工業大学工学部機械機能工学科の細矢直基教授(機械力学)は「今回は常温常圧で実験したが、温度や圧力、ゲルの大きさをさまざまに変えた場合も調べる必要がある。エタノール以外の液体燃料の検証や、ゲル作成の効率も課題だ。研究を重ね、エンジンや発電所で実用化し、安全性を高めて事故が減るような未来が開けると非常に良い」と述べている。
成果は国際化学工学誌「ケミカル・エンジニアリング・ジャーナル」の電子版に4月に掲載され、芝浦工業大学などが5月24日に発表した。
関連リンク
- 芝浦工業大学などプレスリリース「液体燃料を高分子ゲルに含有する安全な貯蔵法を実現」