誰でもどこでも、原料を混ぜるだけで、設計した通りに高分子を精密に合成できる新しい手法を、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センターの宮島大吾(みやじま だいご)基礎科学特別研究員と相田卓三(あいだ たくぞう)グループディレクター、東京大学大学院工学系研究科大学院生の姜志亨(カン ジヒョン)さん、伊藤喜光(いとう よしみつ)助教らが開発した。さまざまな高分子材料の製造に道を開く画期的合成法として注目される。大阪大学大学院工学研究科の井上佳久(いのうえ よしひさ)教授、森直(もり ただし)准教授らとの共同研究で、2月5日付の米科学誌サイエンスのオンライン版に発表した。
プラスチックやゴムのような素材は日常生活に欠かせない。それらは小さな分子(モノマー)が数珠のように鎖状につながった高分子(ポリマー)からできており、求められる機能に合わせて、小さな分子の種類やつなぎ方が制御されている。しかし、多種多様な高分子を製造するには、高度な専門知識と熟練技術、反応条件を制御できる設備が必要となる。1980年代後半に、「温和な条件下で原料を混ぜるだけ」で、水素結合や分子間の相互作用など、小分子間に働く弱い引力で互いに接着していく超分子ポリマーの合成法が報告されたが、小分子同士が勝手に連結してしまうため、思い通りの製造が難しかった。
小分子が高分子に成長するには、2つの連結点が必要となる。研究グループは、小分子が持つ2つの連結点をあらかじめ分子内で接着して環状の構造にして、他の分子と勝手に連結できないように工夫した。そこに連結点を1つだけ持つ小分子を連結反応開始剤として混ぜたところ、原料の小分子の環状が解かれて、鎖状の2量体を作り、さらに3量体、4量体と連結を何度も繰り返し、鎖の長い超分子ポリマーにまで成長した。ポリマーの長さは、混ぜた小分子の量で簡単に調節できた。例えば、連結反応開始剤に対して環状の小分子を1000倍加えれば、1000回の連結反応が繰り返されて、ポリマーの鎖の長さが決まる。
高分子のこの新しい合成法を使えば、原理的に、誰でも、どこでも超分子ポリマーの精密合成が簡単にできる。自由な設計が可能なため、新しい高分子材料の開発につながると同時に、製造工程を常温、常圧下で著しく簡素化し、コストの削減も期待できる。また、分子同士が共有結合でつながれていないため、簡単な操作で原料まで分解でき、完璧なリサイクルを実現しやすく、環境に影響を与えない利点もある。
研究グループの宮島大吾さんは「従来の高分子は長さを制御するだけで、その性質が大きく変わることが知られている。試験管さえあれば、誰でも精密に超分子ポリマーを合成できる今回の成果は、超分子ポリマーの新しい応用開発につながることが期待できる。この合成法をさらに展開し、環境に優しい新しい機能性材料を作っていきたい」と話している。
関連リンク
- 理化学研究所 プレスリリース
- 大阪大学 プレスリリース