引っ張ると頑丈になり、離すとすぐに元の状態に戻る高分子の「自己補強」ゲルを開発した、と東京大学の研究グループが発表した。強さは世界最高水準で、繰り返し強い力が働く人工靭帯・関節といった人工運動器など、広い応用が期待できるという。
高分子ゲルは、長いひも状の高分子の鎖が連結した網目のような構造に、水などの溶媒が取り込まれた材料。強度の高いゲルが次々と開発されてさまざまな産業・工業分野で使われているが、これまでの高強度ゲルは強い力が繰り返し働くとだんだん元に戻りにくくなるという難点があった。
東京大学物性研究所の眞弓皓一准教授と同大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授らの研究グループは、応用分野が広く、強靱かつ復元力(回復性)がある高分子ゲルの開発に取り組んだ。
研究グループは、強靱な天然ゴムを引っ張ると高分子の鎖が伸び切って互いに寄り集まって結晶化(伸張誘起結晶化)し、力を取り除くとできた結晶はすぐになくなる性質があることに着目。この伸張誘起結晶化が高分子ゲルでも起きる仕組みを研究した。
眞弓准教授らは、高分子の鎖が環状分子でつながった「環動ゲル」の構造を採用した。環動ゲルは、高分子鎖にかかる張力が均一に分散されるので優れた強靱性を示すという特長がある。
研究過程で同准教授らは、環動ゲルの環状の分子数や分子の鎖の長さ、高分子濃度を調整すると高分子の鎖が結晶化する現象を発見。こうした成果を生かして強靭性と回復性を兼ね備えた自己補強ゲルの開発に成功したという。
研究グループによると、自己補強ゲルの強靱性は世界最高水準で、即座に回復する割合もほぼ100%。繰り返し大きな力がかかっても高い回復性が求められる人工運動器など、一般になじみが深い工業製品に広く使えるという。
研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業、未来社会創造事業などの支援を得て進められ、論文は4日付の科学誌サイエンス電子版に掲載された。
関連リンク
- 東京大学物性研究所プレスリリース「引っ張ると頑丈になる自己増強ゲル~繰り返し負荷に耐えられる人工靭帯などへの応用に期待」