ロシアによるウクライナ侵攻を巡り米露の緊張が高まる中、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した米国人1人とロシア人2人の飛行士が30日、ロシアのソユーズ宇宙船で計画通り、地上に帰還した。帰還前に米国人飛行士が「大変な困難の時だが、つながりの維持を望む」と述べる一方、ロシア人飛行士も「宇宙で私たちはワンクルーだ」と述べ、ウクライナ情勢がISSの活動に直ちには影響しないとの思いをアピールした。

米航空宇宙局(NASA)の発表やNASAテレビの映像によると、米国のマーク・バンデハイ飛行士とロシアの2人の飛行士を乗せたソユーズは日本時間30日午後4時21分にISSを離脱。大気圏に再突入し、パラシュートを開き同8時28分、カザフスタンの草原地帯に軟着陸した。ロシア人に続き船外に運び出されたバンデハイ飛行士は、手を振って元気な様子を見せた。
帰還に先立ちバンデハイ飛行士は日本実験棟「きぼう」から地上に向け「ISSは人類が協力してできることの素晴らしい例だ。今は国際関係にとって大変な困難の時。世界平和を懸命に求めるための共通の基盤として、このようなつながりが維持されることを望んでいる」とウクライナ情勢を念頭に、宇宙分野の国際協力の重要性を指摘した。
29日のISS船長交代式では、船長を務めていたロシアのアントン・シュカプレロフ飛行士が「地上で人々が問題を抱えているが、軌道上で私たちはワンクルー。ISSは友情と協力、宇宙探査の未来の象徴だ」と英語で述べ、後任の米国人、トーマス・マーシュバーン飛行士と抱き合う一幕があった。

2011年にスペースシャトルを廃止した米国は独自の有人船を喪失。その後はロシアに運賃を払いソユーズに搭乗してきた。日欧の飛行士も、米国と契約する形でソユーズを利用。この間、米国は民間有人船2機種の開発を進め、2020年5月に「クルードラゴン」がISSへの有人試験飛行に成功し、11月に本格運用を開始した。開発は大幅に遅れたが、米国はウクライナ侵攻の前に有人飛行のロシア依存から脱却できたことになる。

米国人がISSに常に滞在するためには、機種を問わず米国人が乗ることが望まれる。このため、米国は引き続きソユーズを利用する可能性を残してきた。バンデハイ飛行士のソユーズ搭乗はその実例となった。ただ、ウクライナ情勢を受け米露の対立が深まる中、宇宙分野の協力関係の行方が焦点となっている。
バンデハイ飛行士は昨年4月から355日間を宇宙で過ごし、米国人の1回の飛行時間の記録を15日伸ばした。将来の月や火星探査による長期飛行が、身体に及ぼす影響を調べる狙いがあるという。
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