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橋の路面支えるコンクリート、劣化を非破壊で検査 理研など手法開発

2021.12.03

 橋のアスファルト舗装の下にあるコンクリートの劣化を、放射線の中性子のビームを使い、非破壊で画像で示すなどして検査するシステムを開発した、と理化学研究所とJFEエンジニアリング(東京)の研究グループが発表した。外から見えない内部を簡単に調べることで劣化が早期に発見でき、修復による長寿命化や、落橋、橋に穴が空くなどの重大事故の防止につながるという。

 橋の舗装の下には鉄筋コンクリートなどの床版(しょうばん)があり、車や人の重みを支えている。コンクリートは砂利や石の「骨材」と、セメントでできているが、ひび割れなどから水が浸入し、セメントが流されて骨材だけが残る「土砂化」が生じると、やがて空洞ができるなどして強度が低下。ついにはコンクリートの塊が抜け落ちてしまう。重大な事故につながるため定期点検が重要だ。

中性子を利用した「水分・空隙検出システム」の模式図(理化学研究所提供)

 ただ、従来の手法ではアスファルトをはがす必要がありコストや時間がかかる上、通行止めにする必要もあり、ほとんど行われていないという。これらの課題を克服する非破壊検査法が注目されている。

 こうした中、研究グループは、電気的に中性で透過力が高い中性子を利用した「水分・空隙検出システム」を開発した。陽子を加速してリチウムの標的にぶつけ、原子核反応で中性子ビームを生成。これを床版に照射すると中性子が内部を伝わった後、散乱して一部が床版の表面へと戻ってくる。この中性子の2次元分布や、伝わるのにかかる時間を計測することで、床版の内部の情報が得られる仕組み。

 この技術では装置が全て路面側にあり、橋の裏側に検出器が要らないため、従来の非破壊検査に比べコストや所要時間を抑えられる。中性子の発生装置には、理研が開発した「RANS(ランズ)2」を用いた。中性子の強度が高く、微小な欠陥を検出できるなどの特徴があるという。

コンクリートの欠陥を画像化する実験の結果。土砂化の後に雨で水浸しになった状態を模擬したもの(左)は中心部が赤くなり、中性子が多く検出されたことを示す。骨材が残り空隙が多い乾燥した状態の模擬では青く、中性子が少ない(理研提供)
コンクリートの欠陥を画像化する実験の結果。土砂化の後に雨で水浸しになった状態を模擬したもの(左)は中心部が赤くなり、中性子が多く検出されたことを示す。骨材が残り空隙が多い乾燥した状態の模擬では青く、中性子が少ない(理研提供)

 このシステムを使い、アスファルトの下に欠陥のあるコンクリートの層を入れた床版の試料を測定した。欠陥は3種類で(1)土砂化の後に雨で水浸しになった状態、(2)骨材が残り空隙が多い乾燥した状態、(3)上側が空隙で下側が水分の状態――を、それぞれ模擬したものを用意した。

 5分ずつかけて測定した結果、劣化の画像化に成功。位置や大きさの測定だけでなく、劣化の状態が水分か空隙か、または両方を含むかの識別にも成功した。状態は検出する中性子の数や、中性子がコンクリート内部を伝わる時間を手掛かりに測定できた。空間分解能は5~10ミリ程度という。

 研究グループは屋内のRANS2を可搬型にした「RANS3」を開発中で、これを含むシステム一式をトラックのコンテナに収める計画。実現すれば、道路を通行止めにせず、車線規制のみで非破壊の劣化診断ができるようになる。定期診断が容易になり、コンクリートの劣化の初期段階で補修ができれば、インフラの維持の低コスト化や長寿命化につながるという。

RANS3を搭載したトラックの想像図(理研提供)
RANS3を搭載したトラックの想像図(理研提供)

 研究グループの理研光量子工学研究センター中性子ビーム技術開発チームの藤田訓裕研究員は12月1日の会見で「社会問題となっているインフラの老朽化対策になり得る技術の原理を実証できた。さまざまな公共インフラに適用できるよう、今後も技術を深めたい」と述べた。大竹淑恵チームリーダーは「実用化へと大きな一歩を歩めており、RANS3に向けて開発を進めていきたい。(RANS3はトラックが)止まって測定するが、1回で60センチ四方と、ある程度大きな面積を測れる。中性子は新しい技術であり、一般社会に受け入れられる安全なものにしていきたい」とした。

 成果は日本材料学会「コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集」に10月14日に掲載され翌日のシンポジウムで報告。理研などが12月1日に発表した。

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