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ハリガネムシは宿主カマキリを操り、水平偏光を目印に水に飛び込ませる

2021.06.28

 寄生虫のハリガネムシは宿主のカマキリを操り、川や池に飛び込ませる。その際、水面の反射光に含まれ、電磁波の振動が水平方向に偏った「水平偏光」が目印になっていることを発見した、と神戸大学などの国際研究グループが発表した。寄生生物が、宿主の光を感じる仕組みを巧みに操作して、宿主に行動を起こさせていることを示したのは世界初という。

水面で、カマキリの体から出てくるハリガネムシ(佐藤拓哉・神戸大学准教授提供)

 寄生生物の中には、宿主の形態や行動を変えてしまう種も多く、ハリガネムシは代表例とされる。水中で孵化(ふか)し、最初に寄生する水生昆虫が羽化して陸に移るとカマキリなどに食べられ、今度はその体内で成長。成虫になると宿主のカマキリを操って水に飛び込ませる。そして水中に戻り繁殖して一生を終える。一方、泳げないカマキリはどうにか陸に戻るものの、寄生により内臓が弱っておりほどなく死んでしまうという。

 100年あまり前にハリガネムシが宿主を水に入れることが分かったが、その仕組みは謎だった。水面の明るい反射光に引き寄せられるとも考えられてきた。ただ河原の礫帯(れきたい)や葉など、光をよく反射する他のものには飛び込まないことから、研究グループは明るさ以外の原因があると考えた。近年、昆虫など節足動物が水平偏光を手がかりに行動することが明らかになっている。そこで、寄生されたカマキリも川や池の水平偏光に誘われているとの仮説を立て、国内で広くみられるハラビロカマキリで実験した。

 まず室内で、ハリガネムシに寄生されたカマキリと寄生のない普通のカマキリが、水平偏光と偏光していない光のどちらに誘われるかを、明るさを変えて調べた。その結果、寄生されたカマキリは特に2000ルクス以上で、水平偏光を選ぶ傾向が明らかに強かった。垂直偏光では明るさや寄生の有無を問わず、偏光を選ぶ傾向はみられなかった。これにより寄生されたカマキリは、水平偏光に引かれることが分かった。

 寄生されたカマキリが実際、水平偏光を強く反射する池に入るのかを調べた。野外のビニールハウス内に、底が深くて黒いが水平偏光の反射が強い池と、浅くて明るく水平偏光をほとんど反射しない池を設け、両者の間の木にカマキリを放った。すると、池に飛び込んだ16匹のうち14匹が前者に入った。ハリガネムシが巧みな戦略を獲得し、すぐに干上がってしまう水たまりなどを避けて繁殖を成功させていることがうかがえる。なお2つの池で、光の波長はよく似ているという。

実験結果。(左)ハリガネムシに寄生されたカマキリは、水平偏光を選ぶ傾向が強かった。(右)寄生されたカマキリ16匹のうち14匹が水平偏光の反射が強い池に入った(いずれも神戸大学提供、一部改変)

 寄生されたカマキリが正午ごろに特に水に飛び込むことも発見。寄生されたカマキリがよく歩く時間帯でもあり、カマキリやハリガネムシの一日の生活リズムとの関連の可能性もみえてきた。

 研究グループは引き続き、カマキリが水平偏光を見る仕組みや、ハリガネムシがそれを操作する仕組みの解明を目指す。研究グループの神戸大学大学院理学研究科の佐藤拓哉准教授(生態学)は「今後は偏光に特化してメカニズムの研究を進められる。多くの動物は、人間には分からない偏光を見る仕組みを進化させてきた。それをゲノム改変せずに上手に少しいじって、狙い通りの行動をさせる寄生虫がいることは、実に面白い。さらに、こうして虫が多く川に飛び込むことで、森から川へとエネルギーが移り、魚に与えられていることもうかがえる」と述べている。

 研究グループは神戸大学、弘前大学、奈良女子大学、台湾・国立彰化師範大学で構成。成果は米生物学誌「カレントバイオロジー」に21日に掲載された。

ハリガネムシの生涯。「シスト」はいわば休眠状態(神戸大学提供)

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