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既存薬からコロナ治療薬を探す研究が盛ん 京大・長崎大がiPS細胞を利用、九大は抗うつ剤の効果発見

2021.04.15

 65歳以上の高齢者を対象に新型コロナウイルスワクチンの接種が始まった。感染の収束が一向に見通せない状況でワクチン普及への期待は大きい。一方、新たな治療薬の登場も待たれており、既存薬から治療効果がある薬を探す研究が盛んだ。最近の成果として、京都大学と長崎大学がiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使って治療薬候補を見つける手法を開発した。また九州大学は抗うつ薬に感染抑制効果があることを明らかにした。

国立感染症研究所が分離した新型コロナウイルスの変異種「VOC-202012/01」の電子顕微鏡画像(国立感染研究所提供)

 京都大学iPS細胞研究所の井上治久教授と長崎大学感染症共同研究拠点の安田二朗教授らの共同研究グループは、人間のiPS細胞に特定の化合物をかけるなどの措置をして、新型コロナと同じRNAウイルスの一種であるセンダイウイルスの感染を防げるかどうかを調べる方法を開発した。このウイルスはマウスなどに感染して肺炎を起こす。

 同グループはこの方法を使い、約500種類の既存薬を対象に調べた結果、いくつかの既存薬に感染防止効果があることが判明した。続いて、新型コロナウイルスにも効果があるかどうか判定できる実験用細胞を使って調べたところ、骨粗鬆症の治療薬「ラロキシフェン」と糖尿病の治療薬「ピオグリタゾン」に感染を防ぐ効果があることが分かったという。

 井上、安田両教授らは、2つの既存薬が感染患者に使えるかどうかについてはさらに検証を続ける必要があるとしている。その上で新型コロナ以外のRNAウイルスによる新たな感染症にも効果を発揮する可能性があるという。

京都大学と長崎大学による新型コロナウイルス感染症の治療薬候補を見つける研究の概念図(京都大学と長崎大学提供)

 九州大学大学院薬学研究院の西田基宏教授と国立医薬品食品衛生研究所薬理部の諫田泰成部長らの研究グループは、新型コロナウイルスが人間の細胞膜上にある受容体タンパク質と結び付いて細胞内に侵入、増殖して感染を引き起こすことに着目。独自の研究で約1200種類もの既存薬から感染予防の可能性がある薬として13種類を絞り込んだ。

 さらに、新型コロナウイルスを模した人工タンパク質を用いた疑似的感染実験や実際に新型コロナウイルスを使った実験を行った。その結果、抗うつ薬「クロミプラミン」に細胞へのウイルス侵入を防ぐ効果があることが分かった。また、このクロミプラミンと国内でコロナ治療薬として承認されている抗ウイルス薬「レムデシビル」を併用することで、ウイルスの増殖抑制効果が大きく増すことも判明したという。

 研究グループは、クロミプラミンには既存の治療薬とは異なる薬効メカニズムがあることから、既存薬との併用による相乗効果が期待できるとしている。動物実験を経て臨床試験を進めるという。

抗うつ薬に新型コロナウイルスが細胞内に侵入するのを防ぐ効果があることを突き止めた九州大学と国立医薬品食品衛生研究所の研究の概念図(九州大学と国立医薬品食品衛生研究所提供)

 新型コロナウイルス感染症は昨年初めに中国から日本や欧米を含めて世界中に急速に広がった。このため各国の研究機関、研究者の間では一から治療薬を開発するよりも既存薬から治療薬候補を探す研究が主流になっている。

 日本でも多くの研究機関でこうした研究が精力的に行われており、理化学研究所が運用するスーパーコンピューター「富岳」が威力を発揮している。新型コロナ対策として富岳に期待されている研究テーマは4つ。その筆頭が「治療薬候補の同定」だ。

 国内外で研究が進む抗ウイルス薬だけでなく、2100種以上の既存薬から効果がある治療薬を探す研究が続いていて具体的な成果が出ている。分子動力学的な研究アプローチができることが強みという。

スーパーコンピューター「富岳」を使った新型コロナウイルス感染症治療薬発見研究の概念図(理化学研究所提供)

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