ニュース

コロナ禍と向き合った「サイエンスアゴラ2020」閉幕 100の企画通じ、未来社会の「Life」に考え深める

2020.11.24

 よりよい未来社会のあり方を科学者と市民がともに考える国内最大級の科学イベント「サイエンスアゴラ2020」(主催・科学技術振興機構(JST))が22日午後、プレ企画を含めて10日間の日程を終えて閉幕した。サイエンスアゴラは15回目だが、コロナ禍に見舞われている今年は初めてオンライン形式での開催となった。「Life」をテーマにした約100の企画の多くはオンラインを意識し、画像の見せ方や説明の仕方に工夫が凝らされていた。日曜日の開幕、閉幕日を含めた全日程を通じ、地域や世代を超えた多くの人がコロナ禍と向き合ったさまざまな企画に参加。私たちの生命や生活、人としてのあり方と科学技術の接点についての考えを深める場となった。

 それぞれの企画は来年夏ごろまではJSTの「アゴラ特設サイト」(https://www.jst.go.jp/sis/scienceagora/2020/)から閲覧できるほか、ユーチューブ動画はアーカイブとして検索により視聴可能だ。

 サイエンスアゴラ2020は13、14日に開催された「国際競技大会サイバスロン」などのプレ企画に続き、15日午前の開幕セッションで本格的な企画が始まった。約100の企画は「Life」を共通テーマにしながらも「未来社会」「コロナで変わる『新しい生活』」「ダイバーシティ、インクルーシブネス」「地域課題やSDGs」「危機に備える」「研究者と考える」「次世代研究者」「先端技術・データの活用」「資源・環境・エネルギー」「学習・体験・ものづくり」の10のトピックスに分類される多彩な内容になった。

「Life」を共通テーマにプレ企画を含め10日間、オンライン形式で開催されたサイエンスアゴラ2020(特設サイトから)
「Life」を共通テーマにプレ企画を含め10日間、オンライン形式で開催されたサイエンスアゴラ2020(特設サイトから)

 開幕セッションで主催者を代表してあいさつしたJSTの濵口道成理事長は、コロナ禍を念頭に「今年ほど『Life』に関していろいろなことを感じる年はなかった」と述べた。今年の企画の多くは、何らかの形で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を意識した内容となり、COVID-19を克服するための研究課題を正面から捉える企画もあった。

 21日午後6時から行われた「研究者と語ろう~新型コロナウイルス(COVID-19)免疫学的視点×ウイルス学的視点」(出展者・大阪大学の免疫学フロンティア研究センター・微生物病研究所)では、日本の免疫学研究の第一人者である宮坂昌之・大阪大学名誉教授が、ワクチン開発と密接に関係するCOVID-19の抗体について最新の知見を基に解説した。

 この中で宮坂名誉教授は「抗体といっても、ウイルスを殺す善玉とウイルスの感染を促進する悪玉、それとどちらでもない『役なし』の3種類がある。新型コロナで不思議なのは、感染して作られる抗体が多ければ軽症になるはずなのに重症者の方が抗体量は多い。重症者は善玉以外の悪玉や役なしの抗体も多く、これらのバランスが悪いために重症になるのだろう」と指摘。「3種類の抗体が個々の感染者の中でどのように作られるかを解明することが大切だ」と、今後の対策上重要な研究課題を示した。

 さらに免疫学上の重要な多くのポイントを指摘した上で、「感染防止策と同時に免疫力を維持するために生活リズムを崩さないことが大切だ」と強調した。

宮坂昌之・大阪大学名誉教授
宮坂昌之・大阪大学名誉教授

 コロナ禍に関連しては「DIY災害対策~自分で何ができるか?」(15日午後)、「ポストパンデミックが加速する新たな社会~Society5.0の観点から」(16日午後)、「アゴラ市民会議『人と人の間はテクノロジーでつなげるか~ポストコロナ社会における人間らしいLifeのゆくえ』」(15日午後)、「危機対応における科学コミュニティの役割とは~COVID-19パンデミックの教訓から~」(20日午後)などが注目された。それぞれのセッションで登壇者は、災禍を経験した私たち一人一人の生き方やこれからの社会を考える上で示唆に富む発言をし、熱心な議論が続けられた。

16日午後行われた「ポストパンデミックが加速する新たな社会~Society5.0の観点から」(出展者・JST)で議論する登壇者
16日午後行われた「ポストパンデミックが加速する新たな社会~Society5.0の観点から」(出展者・JST)で議論する登壇者

 オンライン形式による今年も昨年までのサイエンスアゴラ同様、小、中学生から大学生まで、多くの若い人やその家族に科学への関心をもってもらうための企画が数多く展開された。「地球の生命に光を当て、そして守る」「西之島の最新情報-急成長する火山島-」のように、オンライン形式を意識して画像や説明の仕方に工夫が凝らされた企画が多くの視聴、参加者を集めた。「やっぱり見たい!原子や分子!!」「ルービックキューブと数学ー数学でルービックキューブを解く」「科学オリンピックで未来を創ろう」など、日にちを問わずオンデマンドで参加できる企画は20件を数えている。

東京大学地震研究所によるオンデマンド企画「西之島の最新情報-急成長する火山島-」一場面。今年の6月に噴煙を上げる小笠原諸島の西之島(東大地震研究所提供)
東京大学地震研究所によるオンデマンド企画「西之島の最新情報-急成長する火山島-」一場面。今年の6月に噴煙を上げる小笠原諸島の西之島(東大地震研究所提供)

 最終日の22日は日曜日とあって、科学に親しみをもってもらうための多くの企画が並んだ。栄養素としてだけではなく、血液や抗体といった生物に必須の物質であるタンパク質の働きを解説する「ようこそ、タンパク質ワンダーランドへ!」や、モデルロケットの研究をして大会に出場し、誘電体バリア放電によるプラズマを発生、解析している岡山県の高校生による「飛ぶ吹きゴマについて」、さらにオンデマンドで、 東京都の高校生が人工知能(AI)やロボットとの共存のあり方を正面から考えた「想像力×創造力 ~AIとの共存を目指して~」といった企画に地域を超えて中高生らが参加した。来年3月に10年を迎える東日本大震災に関連しては「海に生きる:3.11からの10年とこれから」があった。

Zoomのウェビナーで議論する企画「海に生きる:3.11からの10年とこれから」の登壇者(22日午前、出展者・東京海洋大学(東北マリンサイエンス拠点形成事業 TEAMS))
Zoomのウェビナーで議論する企画「海に生きる:3.11からの10年とこれから」の登壇者(22日午前、出展者・東京海洋大学(東北マリンサイエンス拠点形成事業 TEAMS))

 このほか、実用化が近いゲノム編集食品との向き合い方を考える「食べる?食べない?ゲノム編集マダイ」や、微生物やロボットを研究する視点からコミュニケーションを支える技術のあり方を考える「共生するならどっち? ~微生物か、ロボットか~」、素粒子物理学と加速器がどのように「Life」に関わってきたのかを紹介する「素粒子物理×加速器×Life=?」など、最終日も科学技術と社会、生命との関わりについての考えを深める企画が続いた。

 最後の企画は午後7時から始まった今年のサイエンスアゴラを総括する「サイエンスアゴラ2020 振り返り」。サイエンスアゴラ2020推進委員会委員長を務めた駒井章治・東京国際工科専門職大学教授は「今年のテーマの『Life』に沿いながら色々な形で人と人が、組織と組織がつながることについてたくさんの話をしていただいた。研究者から高校生、中学生、小学生まで色々な形で参加してもらい、私自身楽しく拝見した」と述べた。

 また主催者側としてJST「科学と社会」推進部の荒川敦史部長が「10日間、初のオンラインで100もの企画があったのでドキドキしながら見守っていたが、企画自体がとても充実していて、とても嬉しく思っている」と振り返った。

「サイエンスアゴラ2020」を振り返る駒井章治教授(右)と荒川敦史部長
「サイエンスアゴラ2020」を振り返る駒井章治教授(右)と荒川敦史部長

 初のオンライン形式となった今回は、参加者が質問などを通じて登壇者と双方向の交流ができるよう、参加者に事前登録してもらいZoomのウェビナーで行われた。ユーチューブの動画も配信されて多くの人が視聴、参加できた。

 それぞれの企画が始まる前には主催者の思いが込められたメッセージが流れた。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は、私たちの社会に大きな混乱と変化を引き起こしました」「社会が変わっても、変わるもの、変わらないもの、変えたくないものを、それぞれの立場で考えました」と続き、「変化したLife、これからのLife、未来のLife、そして私たちのライフプランを考えてみてください」と問いかけた。

関連記事

ページトップへ