ニュース

植物プランクトンの種類が海のCO2吸収に影響 国環研など南極海で調査

2020.04.27

 植物プランクトンの種類が夏の南極海の二酸化炭素(CO2)吸収量を左右していることを、船舶や人工衛星の広域の観測データから初めて明らかにした、と国立環境研究所などのグループが発表した。南極海は人間の活動で出るCO2を多く吸収する重要な働きをしており、研究成果はプランクトンと気候変動の関係の理解や予測につながりそうだ。

 グループは南極海のインド洋側の海域で、南半球の夏期にあたる12?2月に船舶で植物プランクトンなどを観測した。すると、大型プランクトンの珪藻類(けいそうるい)が増えると海中のCO2濃度が低下する傾向があったのに対し、小型の「ハプト藻類」が増えても傾向はみられなかった。

 ただ南極海の別の海域の調査では、ハプト藻類が増えてもCO2濃度が低下したデータも存在する。植物プランクトンの種類がCO2濃度に与える影響が、同じ南極海でも海域によって異なることがうかがえ、その原因は今後の研究課題となった。

珪藻類とハプト藻類(野坂裕一・東海大学助教提供)
珪藻類とハプト藻類(野坂裕一・東海大学助教提供)

 船舶による観測は場所や時期が限られる。そこでグループは、船舶で得たCO2濃度、植物プランクトンの炭素取り込み量のデータに、10年間の衛星観測から得られた植物プランクトンの炭素取り込み量を加え、CO2濃度の10年間の変化を推定。別の船舶観測のデータとよく一致し、良好な結果が得られた。

 さらに、このCO2濃度の推定を基に、10年間の大気と海洋の間のCO2のやり取りを計算。衛星データの解析を加味すると、珪藻類が多い年ほど大気から海洋へのCO2の移動が増える一方、ハプト藻類では特に関係性はみられなかった。

船舶による現場観測と人工衛星観測のデータを活用し、 CO2濃度を精度よく導き出した(国立環境研究所提供)
船舶による現場観測と人工衛星観測のデータを活用し、 CO2濃度を精度よく導き出した(国立環境研究所提供)

 一連の研究により、船舶の調査に衛星のデータを加えることで、CO2濃度の変化やプランクトンの種類との関係を広域、精細かつ継続的につかめることを示した。

 大気から海洋に溶け込んだCO2の一部は植物プランクトンが光合成で取り込み、食物連鎖で海の深層へと移動する。これにより、海洋が大気のCO2をさらに吸収できるようになる。人間活動で生じるCO2の2?3割を海洋が吸収する。そのうち4割ほどが南極海とみられ、地球規模の炭素循環を理解する上で重要視されている。こうした中、気候変動によって植物プランクトンの種類が変化する可能性が指摘されている。

大気から海洋に溶け込んだCO2の行方(国立環境研究所提供)
大気から海洋に溶け込んだCO2の行方(国立環境研究所提供)

 国環研地球環境研究センターの高尾信太郎研究員(生物海洋学)は「今後も調査海域を広げ、植物プランクトンの変化が海洋の炭素循環にどう影響するかの解明につなげたい。気候モデルの精緻化、気候変動予測の改善にも役立つ」と述べている。

 研究グループは国環研のほか東京海洋大学、北海道大学、国立極地研究所で構成した。この成果は海洋学の国際専門誌「ディープシー・リサーチ・パート1」の電子版に3月19日に掲載され、国環研などが4月16日に発表した。

関連記事

ページトップへ