東京工業大学物質理工学院博士後期課程3年の庄司州作さんと宮内雅浩同大教授らの研究グループは28日、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)とメタンを有用ガスに変換する高性能光触媒を開発したと発表した。触媒の耐久性が高いことも分かった。世界的に削減が求められている温室効果ガスの有効利用策として期待される。
この反応は、メタンを気体のままCO2で改質する「ドライリフォーミング」と呼ばれる。温室効果ガスを水素と一酸化炭素に変え、化学製品の原料とする。天然ガスやシェールガスの有効利用や地球温暖化防止のために注目されている。しかし、反応を効率的に進めるにはセ氏800度以上の高温が必要でエネルギー消費が大きく、触媒の劣化も速いという問題があった。
新触媒は、代表的な金属酸化物であるチタン酸ストロンチウムと、貴金属のロジウムからなる。チタン酸ストロンチウムとロジウム塩の水溶液を密閉容器に入れ、180度で加熱処理すると簡単に作れる。大きさが数十ナノメートルのチタン酸ストロンチウムの結晶粒子表面に、1〜2ナノメートルほどのロジウム粒子が高度に分散しているという。
CO2とメタンの混合ガスに新触媒を加え、波長400ナノメートル以下の紫外線を照射するだけでCO2の転換率が50パーセントを超えた。従来型の熱触媒で同じ性能を出すには500度以上に加熱する必要がある。水素と一酸化炭素の生成速度はCO2とメタンの消費速度の2倍となり、副反応がほとんど起きなかったことが示された。
新触媒の耐久性を調べたところ、長期間にわたって安定であることが分かった。従来型の熱触媒であるニッケルを乗せたアルミナの場合、ドライリフォーミングの最中に副生物の炭素が析出して表面を覆い、触媒性能が極端に落ちる。新触媒は反応の前後で表面変化がなかった。
水の分解や人工光合成などでは、触媒中の水素イオンが反応の媒体として作用しているが、新触媒はチタン酸ストロンチウムの結晶格子の中に存在する酸素イオンが媒体になっていることも分かった。宮内教授は「酸素イオンを媒体とする新しい機構で、さまざまな気相反応への展開が期待できる」と話している。
今後の課題は紫外光だけでなく、太陽光の主成分である可視光にも反応する触媒を作り出すこと。研究グループは酸素イオンが作用するメカニズムを追究し、材料開発を進める考えだ。また、既存の工業的手法と組み合わせれば、ガソリンなどの製造施設の大幅な簡略化と効率化が望めるという。
この研究は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)において行われ、研究グループには物質・材料研究機構、高知工科大学、九州大学、静岡大学が加わっている。成果は英科学誌「ネイチャー・カタリシス」に28日掲載された。
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- 東京工業大学プレスリリース「温室効果ガスを光照射で水素や化学原料に変換 〜高性能な光触媒を開発〜」