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豊富で安価な光触媒発見、可視光で水素発生

2014.03.26

 可視光で水から水素を発生する光触媒として4酸化3スズを、物質・材料研究機構の阿部英樹主幹研究員と梅澤直人主任研究員らが発見した。スズの資源が豊富にあり、安価で、毒性も低いため、大規模な水素燃料製造に道を開く可能性があるという。成果は米化学会のApplied Materials & Interfacesオンライン版に発表する。

 藤嶋昭・東京理科大学学長が1967年に発見した酸化チタンなど代表的な光触媒は、紫外線を吸収して水を分解して水素を出すが、太陽エネルギーの半分以上を占める可視光を利用できない。可視光を吸収する新しい光触媒の開発が世界中で進んでいる。しかし、その多くは高価なレアメタル(希少金属)や有害な鉛を含むため、コストや環境面で課題がある。

 研究グループは「2価のスズイオンを含む酸化物が効率的に可視光を吸収して、水を分解する光触媒になる」という理論予測を基に物質を探した。その結果、通常の4価に加えて2価のスズイオンからなる酸化物、4酸化3スズを合成した。この物質は可視光で水分解を促進し、水素を出した。

 この4酸化3スズは、可視光照射下での水分解が、2酸化スズや酸化チタンに比べて効率よく、大量の水素を発生した。メタノール水溶液から触媒1グラム当たり1時間に0.52

 ミリリットルの水素を生成した。スズの酸化物は既に透明導電体の材料として広く利用されている。研究グループは、装置を大型化すれば、工業的な生産も可能としている。

 この発見は、阿部主幹研究員の実験と梅澤主任研究員の理論の連携で実現した。2価と4価という価数の異なるスズの酸化物の合成に苦労したが、試行錯誤の末、最終的に圧力ガマを使い、高圧の水中で塩化スズを加水分解して、4酸化3スズの結晶にたどり着いた。

 阿部主幹研究員は「日本の元素戦略の研究で生まれた材料だ。水素の生産効率がさらに10倍になるように改良を重ね、水素を製造する工程に実用化したい。スズは豊富な資源で、安価に使えて、毒性も低いので、将来の水素製造には有望だろう。水素燃料電池などと組み合わせて、太陽エネルギーによる循環型社会の実現に寄与する可能性がある」と期待している。この研究はJSTの課題達成型基礎研究の一環として支援を受けた。

新しい光触媒の4酸化3スズの電子顕微鏡写真。薄片状結晶の集合体
写真. 新しい光触媒の4酸化3スズの電子顕微鏡写真。薄片状結晶の集合体
可視光照射下で発生する各触媒の水素発生率の比較
グラフ. 可視光照射下で発生する各触媒の水素発生率の比較

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