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多彩な企画で「人間らしさ」考える 「サイエンスアゴラ2019」に5000人が参加し閉幕

2019.11.18

 あらゆる人に開かれた「科学と社会をつなぐ場」として3日間にわたり開催された国内最大級の科学フォーラム「サイエンスアゴラ2019」(主催:科学技術振興機構(JST))が17日閉幕した。14回目となる今回は「Human in the New Age —どんな未来を生きていく?—」をテーマにした講演や展示ブースなど、140企画以上が展開された。東京・お台場地区の日本科学未来館とテレコムセンタービル、シンボルプロムナード公園の3カ所が会場となり、来る未来の「人間らしさ」「人間や科学技術の未来」を約5000人の参加者がともに考える3日間となった。

会場の1つテレコムセンター内
会場の1つテレコムセンター内

 初日の15日は、基調講演とキーノートセッションを日本科学未来館で開催。基調講演は、インドの地下鉄整備を現地のステークホルダーとともに「共創」で牽引した土木コンサルタントの阿部玲子さん(オリエンタルコンサルタンツ インド現地法人 取締役会長)と、欧州で「科学と社会をつなぐ場(ユーロサイエンス・オープン・フォーラム(Euro Science Open Forum:ESOF))」を主催するユーロサイエンス総裁のマイケル・マトローズさんが登壇した。

 続いてキーノートセッションでは、サイエンスアゴラ2019のテーマ「Human in the New Age —どんな未来を生きていく?—」を議題に、アカデミアや産業界のリーダーたちが「人とは」「人間らしさとは」を様々な角度から掘り下げる議論が展開された。この日は、ほかにもシンポジウムと表彰式が行われている。

基調講演に登壇した阿部玲子さん(左)、マイケル・マトローズさん(右)
基調講演に登壇した阿部玲子さん(左)、マイケル・マトローズさん(右)

 16日と17日はテレコムセンタービルが主会場になり、シンボルプロムナード公園も会場となった。今年のサイエンスアゴラは、人間とAIが共存する未来社会像の象徴として、3DCG女子高生「Saya」をキービジュアルに起用。SNS上でも話題を呼んだ。

キービジュアルに起用された3DCG女子高生「Saya」
キービジュアルに起用された3DCG女子高生「Saya」

 テレコムセンタービルの1階に特設された「アゴラステージ」では、宇宙研究の第一人者で物理学者の村山斉さん(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授ほか)や、世界陸上400mハードルで2度の銅メダルを獲得し“侍ハードラー”と呼ばれた為末大さんら多彩な登壇者が「Science for Peace ?大型加速器が創る世界平和?」「超人スポーツシンポジウム@サイエンスアゴラ2019」などと題したセッションに登壇し会場を盛り上げた。

村山斉さん(左)、為末大さん(右)
村山斉さん(左)、為末大さん(右)

 日本科学未来館では午後3時から、アゴラ市民会議「どんな未来を生きていく? 〜AIと共生する人間とテクノロジーのゆくえ」が開かれた。

 科学者、漫画家、哲学者、エンジニア、新聞記者など多様なバックグラウンドをもつ12人が一堂に会し、約3時間にわたって150人を超える来場者の前で濃密な議論を繰り広げた。モデレーターを務めた紺野登さん(多摩大学大学院教授、一般社団法人Future Center Alliance Japan代表理事)は、「日本は草の根的にイノベーションを起こすことを伝統的に得意とする。今日のような議論を続けることが重要だ」と総括した。

アゴラ市民会議の模様
アゴラ市民会議の模様

 最終日の17日は、サイエンスアゴラのために来日したマーク・ポストさん(オランダ・マーストリヒト大学教授、モサミートCSO)らが、未来の食や「培養肉」について議論するセッションに登壇。ポストさんは2013年に世界初の「培養肉ハンバーガーの試食会」を主催し、世界中を驚かせた人物で、会場は多数の立ち見客も出るほどの大盛況を見せた。来日前から「日本の若者と食の未来を語るのが楽しみ」だと語っていたポストさん。その言葉通り、長身を屈(かが)めながら小学生と目線を合わせて議論する場面も見られた。ポストさんは「肉を含めて人々が自ら食を選択し、皆で食卓を囲めるような環境が継続できるように努力していきたい」などと話していた。

会期中、一番の盛り上がりとなった「培養肉」セッションの模様
会期中、一番の盛り上がりとなった「培養肉」セッションの模様

 この日はまた、今年新たにJSTが創設した2つのアワードに関するイベントも催された。午後1時からは日本科学未来館で、「輝く女性研究者賞」(ジュン アシダ賞)の表彰式とトークセッションが行われた。表彰式では、未来に貢献する優れた研究を行っている女性に贈られる同賞は欧州分子生物学研究所(EMBL)バルセロナの戎家美紀グループリーダーに、女性研究者の活躍を推進している機関に贈られる「輝く女性研究者活躍推進賞」は九州大学(久保千春総長)に、また、輝く女性研究者賞に次ぐ優れた研究と評価された女性研究者に贈られる「科学技術振興機構理事長賞」は京都大学高等研究院の深澤愛子教授にそれぞれ授与された。賞状はJSTの濵口道成理事長から、副賞は「芦田基金」を代表して同基金を創設した故・芦田淳氏の次女であるファッションデザイナー芦田多恵さんからそれぞれ贈られた。

 戎家さんは「第一回の賞に選んでいただきたいへん光栄です」、九州大学の久保総長は「大学として女性研究者の活躍促進のためのいろいろなシステムを作っているが、機関として選ばれて嬉しい」、そして深澤さんは「受賞して責任も重いと感じているがこれからも輝き続けて頑張れというメッセージをもらったと思っている」と、それぞれ受賞の喜びを語った。

「ジュン アシダ賞」表彰式の模様
「ジュン アシダ賞」表彰式の模様

 もう1つは、科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation:STI)を活用して地域における社会課題解決につながる優れた取り組みを表彰する制度「STI for SDGs」アワードの受賞者によるピッチトークイベント。7組の登壇者が5分間で自身の取り組みを披露した。中には参加者に「協働」を呼び掛ける受賞者もいた。ショートピッチ後は科学コミュニケーターの本田隆行さんがファシリテーターを務めてパネルディスカッションも行われた。ここでは、受賞者がそれぞれの取り組みの経緯や目的、今後の計画などを説明しながら、同じような問題意識を抱える他の地域への「水平展開」を期待する発言もあった。最後に、JST「科学と社会」推進部長の荒川敦史さんが、JSTとしても対話の場づくりやメディアでの情報発信などを通じて、優れた取り組みのさらなる発展を後押ししていく旨を述べた。

 このほかにも、「JST次世代人材育成事業」の研究発表やセッションも催され、次世代を担う若者からの力強いメッセージも会場を盛り上げていた。

「STI for SDGs」アワード受賞者によるピッチトークイベント
「STI for SDGs」アワード受賞者によるピッチトークイベント

 展示ブースでは、ANAの「AVATAR(アバター)」が、テレコムセンターと「対馬野生生物保護センター(長崎県)」や、「こまつしまリビングラボ(徳島県)」を結び、多くの来場者がリアルタイムで現地を“旅して”いた。また、未来の移動手段として期待されるスマートモビリティ「RODEM」の試乗など、未来社会を体感できる企画も多数あり、賑(にぎ)わいを見せた。

 屋外のシンボルプロムナード公園会場でも体験型イベントが行われ、テクノロジーを活用して楽しめる「超人スポーツ」体験などに多くの親子連れらが参加していた。

左からAVATAR、RODEM、超人スポーツ
左からAVATAR、RODEM、超人スポーツ

 今年の参加者は、来場者と講演者や出展者を含めて約5000人を数え、昨年を上回った。サイエンスアゴラ推進委員長の駒井章治さん(奈良先端科学技術大学院大学 准教授)は閉幕セレモニーで「技術が変わっても、人間やコミュニティが求めるものは、意外と大きく変わらないものだと感じることができた」と総括し、「人間らしさ」を問いに掲げたサイエンスアゴラ2019は盛況のうちに幕を閉じた。

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