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「サイエンスアゴラ2016」が開幕 好天に恵まれ親子連れ学生ら来場

2016.11.04

 「つくろう、科学とともにある社会」を「ビジョン」に科学技術振興機構(JST)が主催する科学フォーラム「サイエンスアゴラ2016」が好天に恵まれた「文化の日」の3日、東京・お台場地域の日本科学未来館など屋内外6会場で始まった。サイエンスアゴラは11回目だが、東日本大震災から5年となる今年は日程を1日延長して6日までの4日間の開催。3日は、福島県や熊本県で津波や地震を体験した高校生も参加して「これからの社会と科学のあり方」を探る開幕セッションなどが行われた。また大学、研究機関などが出展したブース企画には親子連れや学生ら科学に関心を持つ来場者が訪れ、研究者らの説明を熱心に聞いていた。

写真1 東京・お台場地域の「サイエンスアゴラ2016」の会場付近
写真1 東京・お台場地域の「サイエンスアゴラ2016」の会場付近

 初日となった3日は、期間中予定された70以上のセッションの一番手として「いま世界が直面するSDGs等の課題解決にイノベーションは何ができるか?」が午前中行われた。国連が昨年採択した「2030年までに取り組むべき持続可能な開発目標(SDGs)」は17の目標と169のターゲットを掲げている。しかし、貧困・飢餓、気候変動、資源保全と有効利用などの分野で目標達成には多くの課題があることが指摘されている。

 セッションでは冒頭、JSTの濵口道成理事長が「全世界で(目標に向け)大きなうねりとなる予感があるが、戸惑いもある。目標は多岐にわたっているし、科学技術、科学の専門的な活動と目標との距離感もある。目標達成時期は2030年でだいぶ先だ。こういう問題がある中で今何ができるのか。多様な17の目標は互いに密接に関連し、多くの問題が重層的に絡み合って世界の問題が次々と生じている。今日の討論を通じて私たちがSDGsにどう取り組むか、についてきっかけをもらい、日々の活動の中でSDGsを理解していくようにしたい」とあいさつした。

 座長の大竹暁・内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官は「SDGsは(達成時期が先なので)若い人のための目標設定でもある」と分野を超えて若い研究者が積極的にこの問題に取り組むよう訴えた。

写真2 セッション「いま世界が直面するSDGs等の課題解決にイノベーションは何ができるか?」
写真2 セッション「いま世界が直面するSDGs等の課題解決にイノベーションは何ができるか?」

 午後の開幕セッションに先立ち昼前から、メディア関係者らを対象に「メディアセッション」が開かれた。テーマは「海外から見た日本の“震災復興5年”と被災地の若者が描く未来社会」。JSTの濵口理事長と全米科学振興協会(AAAS)CEOのラッシュ・D・ホルト氏(元米議会下院議員)のほか、福島県立福島高等学校3年の大浦葉子さん、同県立ふたば未来学園高等学校1年の遠藤瞭さん、熊本県立宇土高等学校2年の中武聖さんの3人の高校生も出席した。

 東日本大震災の日、東京電力福島第1原発から20キロ圏内の福島県南相馬市で被災し、友人も失ったという大浦さんは「地元に野菜工場ができたりして科学技術が活用されているが地元の人たちは科学技術を十分に理解できていない。復興に役立つはずの科学技術と地元の人との距離感が大きい」と強調した。遠藤さんは福島第1原発がある大熊町で小学校4年の時に被災した。遠藤さんは「避難していた4年間、故郷がどうなっているか状況が見えずに悲しかった」と話し、「科学技術のことを知らないと自分の故郷のことが分からないが、科学技術の情報と私を含めた地元の人たちとの距離感が埋まらない。一般の人も自分から情報を知ろうとすることが大切だ」と訴えた。

 中武さんは、東日本大震災の時は岩手県盛岡市で地震を、今年4月には家族で移っていた熊本県で熊本地震の大きな揺れを体験した。今は、この二つの地震の揺れ方の違いに関心があるという。ホルト氏は3人の高校生の話を聞いて「私は皆さんにとって地震がどんなに恐ろしかったか想像することしかできないが、(被災した皆さんは)プロの科学者や政治家ではないが、科学が国民に何をしなければならないか直接問うことができる」と語り、震災を乗り越えてきた高校生を勇気付けた。

写真3「メディアセッション-海外から見た日本の“震災復興5年”と被災地の若者が描く未来社会」(左から濵口理事長、大浦さん、遠藤さん、中武さん、「AAAS」CEOのホルト氏)
写真3「メディアセッション-海外から見た日本の“震災復興5年”と被災地の若者が描く未来社会」(左から濵口理事長、大浦さん、遠藤さん、中武さん、「AAAS」CEOのホルト氏)

 午後1時半からは開幕セッションが行われた。第一部はAAAS・CEOのホルト氏とDeNA創業者で現取締役会長の南場智子氏が基調講演した。ホルト氏は、科学が果たす役割の重要性を指摘した上で「科学は科学者が自分たちのために(研究を)していると考える人も多い。科学は信用に足る存在ではなくなっている。日本では大震災で科学への信用(度)が下がったようだ。しかし科学者はわざと情報を出さなかった訳ではなかった。科学者は(自然災害に対して)あらゆる予測はできないが、(自分たちの情報を)どう伝えるかについてもっと努力しなければならない」などと語り、科学にはまだ多くの課題があることを強調した。

写真4 基調講演する「AAAS」CEOのホルト氏
写真4 基調講演する「AAAS」CEOのホルト氏

 この後第二部は「復興後の未来に向かって-高校生と考える震災復興5年」と題したパネル討論に移った。そこでは「メディアセッション」に出席した3人の高校生も参加し、科学や科学技術の力を将来どう生かせるか、について熱心な議論が続いた。

 ブース企画は、期間中140近くを数える。3日は好天に恵まれたこともあり、主会場の日本科学未来館のほか東京都立産業技術研究センターなどに並んだ多彩なブースに多くの来場者が賑やかに行き来していた。

 「遊んで学ぼう!iPS細胞」ブースでは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究で日本最先端研究機関の一つの京都大学iPS細胞研究所の若手の研究者がカルタを作って「iPS細胞とは何か。将来どんな活用方法があるか」分かりやすく説明していた。「未来社会をそうぞうする~仮想研究所2016」(出展・JST戦略的創造研究推進事業)のブースでは、小さなビーズで細胞構成要素を作りながら細胞の仕組みを学ぶ企画に多くの親子連れが参加し「体験する科学」を楽しんでいた。

写真5 ブース企画「未来社会を創造する~仮想研究所2016」
写真5 ブース企画「未来社会を創造する?仮想研究所2016」
写真6 ブース企画「遊んで学ぼう!iPS細胞」
写真6 ブース企画「遊んで学ぼう!iPS細胞」

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