飛行機に乗っているとき、ガタガタと揺れたり、機体が急にスーッと降下したりするのは、なにしろ地に足がついていないので、とても気持ちが悪いものだ。これはもちろん周りの大気に乱れ、つまり乱気流が生じているからなのだが、このさき地球温暖化が進んだとき、こうした乱気流は増えるのだろうか、減るのだろうか。
海洋研究開発機構気候変動適応技術開発プロジェクトチームの渡辺真吾(わたなべ しんご)・プロジェクト長代理らの研究によると、日本と北米を結ぶ旅客機が多く飛んでいる北太平洋中高緯度の上空では、2040年ごろには乱気流が25%以上も増える可能性があるらしい。
渡辺さんらが対象にしたのは、おもに北太平洋上空での乱気流の増減。とくに旅客機が飛ぶ高度1万メートル付近で発生しやすい「晴天乱気流」に注目した。晴天乱気流には目やレーダーでわかる雲の乱れのような目印がなく、晴れて穏やかだと思っているときに、いきなり遭遇する。シートベルトの着用を促すサインを出せないので、旅客機にとっては危険な現象だ。成田空港からハワイに向かっていた旅客機が上下に激しく揺れて乗客の1人が死亡した1997年の事故は、この晴天乱気流が原因とされている。
研究では、このまま二酸化炭素が増えて地球温暖化が進んだ2030〜2050年ごろの晴天乱気流を、現在(1979〜2010年)と比べた。季節によっても違いはあるが、たとえば秋の場合、日本と米国やカナダを結ぶ便が多い北緯45〜65度くらいの上空に、晴天乱気流の発生数が25%以上増える領域が東西に広がっていることがわかった。
晴天乱気流の増減予測では、その原因としておもに何を想定するか、そして2040年前後の海面水温の予測値の違いなどによって、増加率や増減する海域に違いが出てくる。おなじ秋でも、やはり日本・北米線がよく通るカムチャツカ半島の南方では晴天乱気流はかなり減るという別の予想も、渡辺さんらは出している。
科学では、とくに将来を予測する科学では、その結果が一つに定まらないのは、ごく普通のことだ。地球温暖化で100年後に予想される気温の上昇幅も、研究グループによって予測結果がずいぶん違う。想定する前提や条件が違えば結果は異なるし、予測の際に重視する事柄によっても、結果にずれが出る。科学とはそういうものだから、これをもって「科学的に結論がまだ出ていない」と対策を先送りにしていたのでは、いつまでたっても科学を社会の意思決定に使えるようにはならない。渡辺さんらが予測の対象期間にした2030〜2050年は、もうすぐそこだ。しかもこれは、航空機の安全にかかわる問題だ。地球温暖化による2040年前後の変化についての予測研究は、最近になって続々と出ている。こうした科学の特質を踏まえたうえで、その知見を私たちの近未来の暮らしに最大限に生かす知恵と努力が、社会の側に早急に求められている。
関連リンク
- 海洋研究開発機構プレスリリース「地球温暖化が北太平洋上空の乱気流分布に大きな変化をもたらす —急増を続けるアジア太平洋の航空交通に影響?—」