習い事や語学学習の合言葉は「継続は力なり」。地道に継続すればそれで力がつくのかどうかは、よく分からないが、科学の世界では、たしかに継続が力になることがある。京都大学瀬戸臨海実験所や同志社大学などが、紀伊半島南部の畠島(はたけじま)で50年以上の長期にわたって続けてきたウニの観察で、人間の活動がウニの生態系に及ぼす影響が見えてきたという。
和歌山県・南紀白浜の田辺湾にあるこの畠島では、1963年からウニの観察が続けられている。毎年5〜6月に大潮で海面が下がったときを狙い、食用でおなじみのムラサキウニ、タワシウニ、それにナガウニの仲間を観察してきた。縦横が2.5メートル、3メートルの長方形の区画を決めておき、そこにいるウニを数える。1983年からは、ウニのほか貝やカニ、ヒトデなど、海底にすむ生き物を5年おきに調べる全島調査も加えた。
そして分かったのは、ムラサキウニは赤潮に弱いことだ。赤潮は、海に栄養分が増えて小さなプランクトンが異常に増える現象だ。田辺湾では1970年代の後半から1990年代の前半にかけて、年間の赤潮発生日数が数十日を超えるような年が頻発していた。魚を養殖する際のえさなどが関係していたらしい。この期間に、ムラサキウニの数は激減していた。この調査では、ムラサキウニを現場の海水で育てる実験も行っている。赤潮の発生が多かった当時は、卵からかえった子ウニの発育に異常が頻出していた。赤潮が減ってからは、ムラサキウニは復活している。ムラサキウニは人間活動に敏感に反応していたのだ。
また、ここの冬の海水温は、長期的な上昇傾向にある。それと呼応するように、熱帯性のナガウニ類の数は増えてきている。地球温暖化が影響している可能性があり、ここにも人間活動の影が見える。
人間活動とウニのこうした関係が明らかになったのは、同じ場所で50年以上にわたって調査を継続してきたデータがあったからだ。たとえば、赤潮の多かった期間にウニが少なかったとしても、それは偶然の一致かもしれない。赤潮が減ってからはウニが安定して生息していることを長期にわたって確かめたからこそ、赤潮の発生とウニの減少に関係があることが分かった。研究グループの中野智之(なかの ともゆき)・京都大学フィールド科学教育研究センター助教は、「さらに50年、100年と調査を継続できるよう努力したい」と話している。
関連リンク
- 京都大学プレスリリース「ウニ類に対する人間活動のインパクトを解明 −半世紀の長期継続調査による世界初の成果−」