人の「顔色を見る」という言葉がある。これは相手の表情から思いを読み取ることだが、私たち霊長類の目は、ほんとうに顔色の違いを読み取りやすいようにできているらしい。九州大学の平松千尋(ひらまつ ちひろ)助教らの研究グループが、このほど発表した。
霊長類の目には、「青」「緑」「赤」の色にそれぞれ敏感に反応する3種類の細胞がある。どの細胞がよく反応しているかを脳が処理して、それが何色なのかを判断している。ところが、このうち緑に反応する細胞は、本来の緑ではなく、赤に近い緑に反応しやすい性質を持っている。平松さんらは、この性質が、顔色の微妙な違いを区別するのに役立っているのではないかと考えた。
平松さんらは、顔色の違うアカゲザルの2枚の画像を用意した。繁殖期を迎えたメスのアカゲザルの顔写真と、同じサルを通常期に写した写真だ。繁殖期の顔のほうが、やや赤黒い。この1組の写真について、実物どおりに見える写真(図1)と、「緑」を感知する細胞が、赤に近い緑ではなく本来の緑に敏感に反応すると仮定した場合の擬似画像(図2)を作った。この2通りの写真を人間の男女計20人に見せ、どちらが繁殖期のサルかを瞬間的に判断させるテストを行った。
その結果、擬似画像では正答率が大幅に落ちた。判断にかかる時間も、長くかかった。霊長類に特有な目の細胞が、顔色の違いを的確にとらえることに役立っているという結果だ。
多くの哺乳類は、「青」と「赤」の2種類の細胞で色を判断している。霊長類の場合は、それに「緑」の細胞が加わったことで、緑の葉から赤い実を区別しやすくなったと指摘されてきた。平松さんらの研究で、「緑」を感じるこの風変わりな性質を持つ細胞が、「顔色を見る」という社会的なコミュニケーションにも役立っていることが明らかになった。
関連リンク
- 九州大学などプレスリリース「霊長類の色覚が、顔色を見分けるのに適していることを証明 —適応進化の過程の解明に期待—」