放射線被ばくの線量が同じでも、時間当たりの被ばく線量が小さいほど発がんリスクが低くなると、量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所の研究グループが13日、発表した。実効線量換算で500ミリシーベルトを照射したマウス実験による結果で、論文は米医学誌に掲載された。
研究グループは、主に小児の小脳に発生する脳腫瘍の一種「髄(ずい)芽腫」の発生要因が被ばくか、その他の自然要因かを遺伝子解析で識別できる特殊なマウスをつくることに成功。このマウスを、被ばく線量が500ミリシーベルトになるように短時間照射したグループと、同じ線量を4日間にわたって照射したグループ、さらに100ミリシーベルを4日間照射したグループに分けて髄芽腫の発生割合に差があるかを調べた。
その結果、500ミリシーベルトを分単位の短時間照射したマウスの約34%が髄芽腫を発生した。一方で同線量を4日間照射したマウスの発生率は約16%だった。100ミリシーベルト4日間照射マウスは同約1%で、放射線を照射しなかったマウスの2%よりも低いほどの低率だったという。
時間をかけて照射したマウスのがん発生率が低くなった今回の結果について研究グループは、生体の遺伝子損傷修復能力が発がんを抑制したためとみている。
今回の実験はマウスを対象にした100〜500ミリシーベルトレベルの照射実験。人体への影響に直接結び付けるのは早計だが、今回がん発生要因を識別できる実験マウスができたことにより、低線量被ばくによる発がんリスク解明研究が進むとみられる。
放射線被ばくの人体への影響についてはさまざまな研究があるが、低線量についての科学的データは少なく、特に遺伝的影響については議論も多い。国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告などにより、現在国内では、職業として放射線を扱う人は年間50ミリシーベルト、5年間で100ミリシーベルト以下、一般人は年間1ミリシーベルト以下と、線量限度が法律で定められている。短時間の被ばく線量が500ミリシーベルトを超えると血中リンパ球が減少すると指摘されている。
関連リンク
- 量子科学技術研究開発機構プレスリリース「『じわじわ』被ばくの発がん影響を動物実験で明らかに-モデルマウスを用いて低線量率被ばくに起因する発がんリスクを直接的に評価-」