「2015年ごろから数年のうちに北半球が寒冷化するかもしれない」との予測結果を、グリーンランド海付近の観測データを解析した海洋研究開発機構・地球環境変動領域の中村元隆主任研究員が米国気象学会誌『Journal of Climate』に発表した。1980年代以降の北半球の温暖化をもたらした“1979年の大転換”とは逆の現象が2015年ごろに起きる可能性を指摘したもので、北大西洋近辺の変動を注意深く観察する必要があるという。
大西洋の熱帯域から北緯70度付近までの海域では、海面水温が約70年周期で上昇・下降を繰り返す「大西洋数十年規模振動」という現象が過去1000年以上にわたって見られ、これが北半球のほぼ全域の気候にも影響していると考えられている。この現象により北半球の平均気温は1980年ごろから約35年間温暖化するとされるが、現行の気候モデルでは、増加しつつある二酸化炭素による影響とは明確に区別されていない。
中村主任研究員はヨーロッパ中期予報センターや米国海洋大気庁、英国気象庁の1870年から現在までの全球海面水温データを基に、大気下層部の温度勾配と大気・海洋の状態と関係を解析した。その結果、とくにグリーンランド海付近の水面温度が大西洋の大気に強く影響し、水面温度の高低によって大西洋の南北での気圧差の変動が起きていることをつかんだ。さらに、過去の1979年の2月から3月にかけてグリーンランド海付近では平均海水温が急激に2℃近く上昇し、これが周辺の大規模な大気の流れを引き起こすことで、北半球中高緯度域の気候変化をもたらした可能性のあることが分かった。
こうした“1979年の変化”は、1940年代から70年代にかけての北半球の寒冷化から1980年代以降の温暖化への大きな転換点となったとみられ、日本付近でも1979年以降、月平均気温の年ごとのブレ幅が増大するような極端現象が、高い頻度で起こるようになったという。
中村主任研究員は「2015年前後にグリーンランド海において1979年に起こったのとは逆の現象が起こると考えられる」と指摘。最近10年ほどの地球温暖化の停滞の傾向は「大西洋数十年規模振動」の周期から推測される傾向と一致しており、数年間で北半球が寒冷化へ移行する可能性もあると述べている。