産業技術総合研究所・幹細胞工学研究センターと和光純薬工業(本社・大阪市)は、培養液に加えるだけでヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を生きたまま可視化できる高感度の検出用物質を開発したと発表した。移植用に作製された細胞にある良質なiPS細胞を簡単に見分けられるほか、残存する未分化のiPS細胞を可視化し、除去することで腫瘍形成などを回避できるようになるという。
研究チームは、iPS細胞の表面に結合するタンパク質「rBC2LCN」を発見した。このrBC2LCNを赤色蛍光物質で標識し、iPS細胞を培養中の液に添加したところ、iPS細胞を生きたまま蛍光染色することができた。rBC2LCNが結合するのは、iPS細胞の膜タンパク質のうちでも、「Hタイプ3」と呼ばれる構造の「O型糖鎖」に結合することが分かった。
iPS細胞から分化し移植される細胞の中には、未分化のiPS細胞が残存し、これが腫瘍化することが知られている。iPS細胞と分化細胞が混じった細胞集団に蛍光標識のrBC2LCNを加え、レーザー光による蛍光選別装置を使って実験したところ、分化細胞とiPS細胞を分離できた。再生医療に用いる移植用の細胞にiPS細胞が混入していても、この技術を応用してiPS細胞を分離できるという。
rBC2LCNには毒性がほとんどなく、培養液中に入れたままにしておけるので、常に品質管理をしながらiPS細胞を培養できる利点がある。さらに、同様に再生医療での研究開発が進むES(胚性幹)細胞も、rBC2LCNによって生きたまま染色できるという。
今回の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(2009-10年度)、和光純薬工業からの資金提供型共同研究(2011年度-)により行われた。論文“Podocalyxin Is a Glycoprotein Ligand of the Human Pluripotent Stem Cell-Specific Probe rBC2LCN”は米科学誌「STEM CELLS Translational Medicine」(オンライン版)に掲載された。