理化学研究所仁科加速器研究センター(埼玉県和光市)の阿部知子 氏・応用研究開発室生物照射チームリーダーらは、加速器「リングサイクロトロン」から発生する重イオンビームを用いて、サクラの新品種「仁科春果(にしなはるか)」と「仁科小町(にしなこまち)」を作出し、今月から販売されることを発表した。サクラ育種家である「JFC石井農場」(山形市)の石井重久 氏との共同開発による成果だという。
重イオンビームは、原子から電子をはぎ取ってできたイオンのうち、ヘリウムイオンよりも重いイオンを高速に加速したもので、研究チームは炭素イオンのビームを使い、植物に効率よく突然変異を起こさせる技術を開発した。これまでにダリアやペチュニア、バーベナなどの品種改良を行い、サクラについても「仁科蔵王」と「仁科乙女」の2つの品種を作り出した。この2品種は、ビームを照射した枝そのものが変異し、それをクローン増殖して新品種としたが、「仁科春果」「仁科小町」は、照射した枝には大きな変化がなく、交配を経た次世代で初めて変異が見つかったという違いがある。
研究チームは2006年に、花の大きさが3.0-3.5センチメートル(cm)、花弁数が21-50枚の八重咲きのサクラ「春月花」の枝に重イオンビームを照射し、それを接ぎ木して開花させた集団内で自然に受粉させて、次世代の種子を得た。09年にその種子をまき、今年4月に開花した集団の中から見出したのが今回の2品種。「仁科春果」は、花の大きさが春月花に比べて4.1-4.2㎝と大きく、花弁数が23-25枚と安定した八重咲きが特徴で、甘い実を付ける。「仁科小町」は、花の大きさが1.3-1.4cmと小さく、花弁数も5枚の一重咲きだが、サクラでは珍しく、花が完全に開かない雪洞(ぼんぼり)のような形(ぼんぼり咲き)となるのが特徴だ。
2品種とも、今月14日に農林水産省に品種登録を出願した。「仁科春果」の花苗の増産は「とちぎ桜組合」(栃木市)の生産農家が行い、今月末から株式会社コメリ(新潟市)が販売する予定。「仁科小町」はJFC石井農場が花苗を増産し、今月20日から京阪園芸株式会社(大阪府枚方市)が販売しているという。