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個人と文化尊重する終末期医療・ケアを 日本老年医学会が見解

2012.02.02

 日本老年医学会は、高齢者の終末期における医療とケアについての学会見解を10年ぶりに改定し、公表した。「患者本人の尊厳を損なったり、苦痛を増大させたりする可能性があるときには、治療の差し控えや治療からの撤退も選択肢として考慮する必要がある」など、高齢者にふさわしい医療とケアのあるべき姿を示している。

 「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」2012 PDFと題した見解は、「専門家を信頼して全てを委ねる」、「何事も運命として受け入れる」といった考え方など、日本特有の死生観を生んだ文化的背景があることを重視しているのが特徴。自律性を重視する欧米文化を背景にした高齢者福祉政策の模倣ではなく、日本人の人生観、死生観さらに家庭環境にも配慮した高齢者の終末期医療とケアの実現を目指している。

 「個と文化を尊重する」「本人の満足を物差しに」「家族もケアの対象に」など基本的考え方を示し、経管栄養、気管切開、人工呼吸器装着などは、患者の尊厳を損なったり、苦痛を増大する可能性を考え、慎重に検討すべきだとしている。日本の文化的背景を無視して、患者本人や家族に対する十分な援助の準備もないまま予後の告知をすることについても「単に死の通告に他ならない」と明確に否定した。

 さらに「苦痛の緩和」と「生活の質」の維持・向上に最大限配慮すること、医療・介護・福祉従事者に対し、卒前教育や卒後研修中に、日本人の死生観や死を受け入れる過程などを学ぶ「死の教育」を必修科目として位置づけることを提言している。

 日本の高齢化は他に類を見ない速さで進んできた。国立社会保障・人口問題研究所が1月30日に発表した「日本の将来推計人口」によると、65歳以上の人口は2010年の2,948万人から、2020年に3,612万人、2042年に3,878万人と、今後も増え続ける。こうした急激な変化に対し、新たな医療とケアの姿が求められているが、医療行政だけでなく、医学界の対応も十分とは言えない。昨年9月に開かれた「日本における老年学・老年医学推進のためのシンポジウム」(日本学術会議臨床医学委員会老化分科会主催)でも、医学部を持つ日本の大学は80あるのに、老人医療の講座を持っているのは22大学しかないなど、老年医学軽視の実態が指摘されている。

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