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日本列島も温暖化の影響多岐に

2008.05.30

 今世紀中に予想される温暖化の影響は、日本でも洪水や土砂災害の増加、森林の北方への移動と衰退、米作への影響、高潮災害の拡大や沿岸部での液状化リスクの増大、熱中症患者の増加、感染症の潜在的リスクの増大といった多岐にわたることが、環境省の戦略的研究「温暖化影響総合予測プロジェクト」による3年間の研究で明らかになった。

 このプロジェクトは、三村信男・茨城大学教授を代表に茨城大学、国立環境研究所、東北大学、農業環境技術研究所、森林総合研究所など14機関、45人の専門家が2005年から進めていたもので、今回公表されたのはプロジェクト前期(05〜08年)の研究結果。8億2,000万円の費用が投じられた。分野別の定量的評価手法を開発し、日本への影響を予測して影響の程度と地域分布を示すリスクマップ(全国と地域評価)を提示、さらに温暖化の進展と影響量の関係を示す温暖化影響関数を開発し、気候シナリオに沿って温暖化が進行した場合、2100年までに全国的な影響がどのように拡大するかを総合的に検討するという手法がとられた。

 研究結果の概要は次の通り。

  • 「水資源」50年に1回降る豪雨が2030年ごろには30年に1回の頻度に増加すると予想される。温暖化による豪雨頻度・強度変化は地域によって差があり、太平洋沿岸や山岳地域の豪雨の頻度と強度が大きくなり洪水のリスクが増大。洪水被害額は年間約1兆円(現在100年に1回の豪雨が50年に1回程度まで増加した場合の被害増加額)。豪雨による斜面崩壊発生危険地域は都市周辺に迫り、特に中国地方や東北地方の都市圏郊外ではそのリスクが高まる。北陸から東北の日本海側で、温暖化による積雪水資源が減少、新潟や秋田など米どころで農業用水となる融雪水が不足する可能性がある。北海道、東北の東岸で水需給バランスが現状よりも逼迫(ひっぱく)し、九州南部と沖縄の水資源は特に逼迫する。
  • 「森林への影響」温暖化に伴う気温上昇・降雨量変化によって森林は大きな打撃を受け、ブナ林・チシマザサ・ハイマツ・シラベ(シラビソ)などの分布適域は激減し、今世紀の中ごろ以降、白神山地もブナの適地ではなくなる。また、マツ枯れの被害リスクが拡大し、1〜2℃の気温上昇により、現在はまだ被害が及んでいない本州北端まで危険域が拡大する。
  • 「農業への影響」コメ収量は、北日本では増収、近畿以西の南西日本では現在とほぼ同じかやや減少する。さらにコメの品質低下、他の穀物や果樹などの生産適地の北上や減収によって農業に大きな影響が及ぶ。気候変動、人口の増加による需要増、投機による価格高騰、バイオ燃料への転用などが重なれば、日本への食料供給に対しても影響が生じる可能性がある。
  • 「沿岸域への影響」海面上昇と高潮の増大で、現在の護岸を考慮しても浸水面積・人口の被害が増加する。特に瀬戸内海などの閉鎖性海域や三大湾奥部では、古くに開発された埋立地とその周辺は浸水の危険性が高い。また、海面上昇は汽水域拡大による河川堤防の強度低下、沿岸部の液状化危険度リスクを増大させる。
  • 「健康への影響」気温特に日最高気温の上昇に伴い熱ストレスによる死亡リスクや、熱中症患者発生数が急激に増加し、とりわけ高齢者へのリスクが大きくなる。気象変化による大気汚染(光化学オキシダント)の発生が増加する。感染症(デング熱・マラリア・日本脳炎)の媒介蚊の分布可能域も拡大する。

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