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気象庁が21世紀末の日本の気候変化予測

2008.03.28

 気象庁が、地球温暖化による21世紀末の日本付近の気候変化を予測した結果を公表した。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が作成したシナリオのうち、排出量が比較的多いA1Bシナリオと排出量が比較的少ないB1シナリオの2つで予測した結果である。これまでのIPCC報告書には日本の研究成果が相当反映されており、報告書の執筆にも多くの日本人研究者がかかわっている。その意味では、今回の予測結果は専門家の想定内ということだろうか。

 気象庁のプレスリリースによると、21世紀末の日本付近の気候は20世紀末に比べ次のように変化すると予測されている。

 寒候期(12〜3月)の平均気温は、高緯度ほど大きく上昇。上昇量は、A1Bシナリオの場合、北海道で3℃以上、東北から西日本では2〜3℃、沖縄・奄美では1.5℃程度。B1シナリオの場合、北海道で1.5〜2℃、その他の地域で1〜1.5℃程度 。

 降雪量は、排出シナリオにかかわらず東北以南で減少、北海道の標高の高い地域で増加。

 年平均海面水温は、A1Bシナリオの場合100年あたり2.0〜3.1℃、B1シナリオの場合100年あたり0.6〜2.1℃上昇。海面水温の上昇は日本南方海域より日本海で大きい。

 年平均海面水位(海水の熱膨張による寄与のみ)は、A1Bシナリオの場合100年あたり9〜19cm、B1シナリオの場合100年あたり5〜14cm上昇。

 A1Bシナリオというのは、すべてのエネルギー源のバランスを重視しつつ、高い経済成長を見込んだ場合となっており、昨年11月のIPCC総会で承認された第4次報告書では、2100年時の大気中の二酸化炭素濃度は717ppmになると予測された。現在(2005年)の濃度は、379ppmだから1.9倍に増える。世界の平均気温の上昇は約2.8℃、海面の平均水位上昇は21〜48cmとなっている。

 日本付近の平均水位上昇は、IPCCの世界平均予測をだいぶ下回るが、気温上昇は北海道など一部でIPCC予測の世界平均を上回るところが出てくるということだ。

 B1シナリオは、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会を想定したもので、IPCC第4次報告書では、2100年時点の大気中の二酸化炭素濃度は549ppmと、現在の1.45倍に増える。気温上昇は1.8℃で、海水面は18~38cm上がると予測された。

 気象庁の予測による日本付近の気温上昇は、IPCCによる世界平均予測値と同程度、海水面上昇はIPCCによる世界平均予測よりは低いという結果になっている。

 さて、それでどうなのかということである。

 世界各国の地球温暖化に対する取り組み、動向に詳しい山本良一 氏・東京大学生産技術研究所教授は、7日に開かれた先端技術産業戦略推進機構主催の国際シンポジウム「地球温暖化と低炭素・循環型共生社会への道」で基調講演し、次のように語っている。

 「3つのシナリオが世界的に議論されている。平均気温上昇を3℃以下にとどめる、二酸化炭素の濃度で言えば550ppmで安定化するというシナリオが政治的コンセンサスをとりやすいだろうと言われている。しかし、これでは地球上のどこでも大きな影響が出てしまう。世界エネルギー機関(IEA)などは、2030年までにあらゆる経済政策、革新的技術を総動員して二酸化炭素の排出をさらに削減する必要があるというシナリオを提示している。大変な努力を要するが、これをやるしかない」

 気象庁の予測に使われた「すべてのエネルギー源のバランスを重視しつつ、高い経済成長を見込んだ」AIBシナリオを前提とした温暖化対策では無論のこと、二酸化炭素濃度を549ppmで安定化させるというB1シナリオでも対策はまだ不十分ということのようだ。

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