レビュー

日非科学的風潮と大学生の学力低下

2007.01.31

 毎日新聞が「科学・いま&未来」面で「科学と非科学」という連載を始めた(1月31日朝刊から)。鳥取市役所分庁舎をはじめ、職場でモーツァルトの曲を流す企業が、鳥取県内に増えている。最初に取り上げられているのが、これを提唱している米子市の民間団体だ。

 「モーツァルトの曲が持つ高周波音の波動が右脳を活性化させ、集中力や発想力を高める」。この「日本音楽熟成協会」理事長の主張だ。

 根拠とされているのは、協会と鳥取大学の研究者が記者会見までして公表した実験結果、と紹介されている。それが「学会や論文では発表されていない」こととともに。

 その実験結果というのは、県内の製造業で「職場にモーツァルトを流し始めて半年後の変化を調べた」ところ「だ液に含まれるストレスの代表的な指標たんぱく質『クロモグラニンA』の濃度は、音楽を流し始める前に比べて平均25%減っていた」というものだ。

 被験者の数がわずか10人ということだけでも、首をかしげる人は多いのではないだろうか。実験を行った研究者(鳥取大学医学部助教授)自体が、毎日新聞の取材に対して「少ない」と認めているくらいだから。

 「科学的な検証を受けない主張がこうして既成事実化され、『科学』として広がっていく」と、記事は結んでいる。

 今月の月刊誌に「『大学生の学力低下』にスポットを当てた特集が目立った」ことを取り上げた論評(時田英之記者)が、同じ31日の読売新聞朝刊文化面に載っている。

 特集記事からの引用が明らかにしている「今日の大学生の『知性』」は、それぞれ相当なものだ。

 「『熊襲が東北で蝦夷が九州だと信じ込んでいる』学生は、『日本史は高校で履修しなかったから』と言い放ったという」(日大、京大、東大、早大の教授4人による匿名座談会「キャンパスは『極楽トンボ』ばかりで日本沈没!?」=「諸君!」)

 「これまでならば大学に入らなかった層が学生となっている。(中略)分数の計算ができない、アルファベットを正確に書けない。そんな学生が増えたとしても不思議ではない」(「小学校教師化する大学教授の仕事」=「中央公論」、筆者は教育ジャーナリストの小林哲夫氏)…。

 非科学的なことを信じてしまう人々が増えるのも…。両紙の記事を読んで、そう感じた人は多いかもしれない。(毎日新聞、読売新聞の引用は東京版から)

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