石川県の能登地方で5月5日午後、震度6強、5強の大きな地震が発生し、その後も地震が相次いでいる。能登地方ではここ数年、地震活動が活発化していた。京都大学などの研究グループや政府の地震調査委員会(平田直委員長)は地下にある水などの流体が断層のずれに関係して地震を起こしたとみている。同委員会は一連の地震はこの流体の移動により次々と発生するタイプで、当分続くとの見方を示した。
気象庁によると、5日午後2時42分ごろ、石川県珠洲市で最大震度6強の地震が発生した。震源の深さは12キロ、地震の規模はマグニチュード(M)6.5と、20年12月から続いていた能登地方の一連の地震で震度、地震の規模ともに最大。同日午後10時前にも最大震度5強の地震があった。5日の地震で65歳の男性が死亡し、約30人が負傷、建物が複数倒壊するなど被害が出た。被災地では6日から雨が降り続き、同庁は土砂災害への警戒も呼びかけている。
長周期地震動を運用開始以来初めて観測
気象庁は5日午後の緊急記者会見で、最初の地震は陸のプレート内部で発生し、断層が上下の方向にずれ動く逆断層型と分析。今後1週間程度は最大震度6強程度の地震に注意する必要があると強調した。また建物の高層階がゆっくり揺れる長周期地震動の、立っていることが困難になり、固定していない家具が移動することなどもある階級3を珠洲市で観測したことを明らかにした。緊急地震速報で長周期地震動予測が出たのは2月の運用開始以来初めてだ。
20年12月から365回の揺れ
気象庁によると、能登地方は2018年ごろから地震回数が増え始め、20年12月からは地震活動が活発化。21年7月ごろから活動はさらに激しくなっていた。21年9月16日にM5.1、最大震度5弱の、22年6月19日にM5.4、最大震度6弱の地震がそれぞれ発生している。20年12月から今回の大きな地震が起きた後の23年5月6日午後4時までに365回の震度1以上の地震を観測した。このうち震度3以上だけでも57回を数えている。
地震調査委員会によると、18年以降の一連の地震のほとんどは今回の大きな地震の震央を中心に東西、南西それぞれ約15キロの範囲で発生。地殻変動も何度も確認されている。今回の地震の前にも石川県珠洲市の観測点で南南東方向に1センチ以上の移動と4センチ程度の隆起が観測されるなど、地殻変動が継続していた。
この一連の地震の前にも過去、能登地方では大きな地震が発生している。1729年にはM6.6~7.0の、1799年、1892年、1933年、2007年にもM6級の地震を観測している。
今回の大きな地震直後の国土地理院や京都大学防災研究所の観測では、珠洲市の観測点で西南西方向に9センチ程度、南西方向に8センチ程度の移動が、また11センチ程度の隆起も確認されている。このほか、陸域観測技術衛星2号(だいち2号)が観測した合成開口レーダー画像の解析結果によると、震央付近で最大20センチ程度の「衛星に近づく」地殻変動が検出されたという。衛星に近づくとは隆起か西方向の移動が考えられるという。いずれにせよ、過去最大級の地殻変動があったことになる。
このほか、珠洲市の観測点で地震に伴う最大729ガルに及ぶ大きな加速度も観測された。これらのデータから気象庁は「一連の地震活動で最大の地震」と断定している。
京大などが観測で地下の流体突き止める
一連の地震に関連して重要な研究成果があった。京都大学防災研究所の吉村令慧教授や金沢大学、兵庫県立大学らの研究グループは能登半島北東部の地震活動の活発化を受けて、2021年11月~22年4月に地下の構造調査を実施した。
その結果、一連の地震活動域やその深部に水などの流体が存在し、一連の地震活動に関与している可能性が高い、との観測結果を22年10月に発表している。
京都大学などの研究グループによると、活火山の存在しない内陸部での群発的地震活動に水などの流体が原因であるとの指摘はあったが、これを裏付けるデータはなかった。
研究グループは、21年11月に地震活動が活発な地域の地表面に計32カ所に地電流や地磁気の観測装置を設置し、22年4月までの間に観測を続けた。取得したデータを解析して地表から深さ20キロまでの構造を推定した結果、一連の地震活動が始まった南側と、その後活動が活発化した北側に電気を通しやすい領域(良導域)が存在することが判明。特に南側の深部にはこの良導域が連続して分布することが明らかになった。研究グループは、地下の良導域は水などの流体に富む領域で、深部から供給された流体が一連の地震活動に関係している可能性が高いと結論付けた。断層の間に流体があると岩盤が滑りやすくなって地震発生のきっかけになり得るという。
研究グループは研究成果の発表当時、流体の分布をより詳細に把握し、流体の時間的変化を調べることにより、一連の地震活動の今後の推移が予測できる可能性があるとしていた。
「地震活動は当分続く」と調査委
政府の地震調査委員会は6日、震度6強の大きな地震発生を受けて緊急に会合を開催した。会合ではさまざまなデータが示され、「活動は当分続くと考えられる」などとする評価結果をまとめた。この評価結果によると、一連の群発地震の震源は能登半島北端の陸域に集中していたが、5日にM6.5の大きな地震が発生してからは北側方向に広がった。
詳しく見ると2020年以降の一連の地震活動は4つの活動域に分かれ、最近ではやや北側の活動域と東側の活動域で地震活動が活発化していた。5日午後2時42分に発生した最初のM6.5の地震は東側域北部で、午後10時前に発生したM5.9の地震はやや北側域で発生し、その後活動域はさらに北側の海域に広がりつつあるという。
地震調査委員会は京都大学などの解析データも参考に今年4月、能登地方の深さ20~30キロにあった水などの流体が少しずつ上昇し、震源も徐々に浅くなっているとの見解を公表。平田委員長が「十分注意してほしい」と述べていた。
今回、平田委員長の懸念の通りになってしまったが、今後も浅い地下で同じようなメカニズムの地震が発生するリスクは高いと多くの専門家は指摘している。水のような流体の動きと地震発生の関係はまだ詳しく解明されていない。現在有力なのは、断層と断層の間に水などが入り込んで断層が滑りやすくするという見方だ。京都大学など研究グループの観測結果がこうした見方につながっている。
プレートでは運ばれた水が地下から上昇
今回、改めて注目された水などの流体は、太平洋プレートに含まれる水などがプレートの沈み込みとともに地下深くに取り込まれ、地下でプレートが流れる途中でしみ出した水が深部から上昇。断層のすき間に入り込むメカニズムが考えられている。プレートと水が関わるこの基本的な構造は他の地域でもあり得るが、なぜ石川県能登地方だけで地震発生と結びついているかは謎だ。
能登半島北側の海底には活断層があることが分かっている。地震調査委員会によると、主に北東―南西方向で逆断層だという。今回の震源はこの活断層の延長上に近いことが今回の会合でも議論された。
一連の陸域の地震が頻発して海側の活断層が刺激される可能性も否定できない。海底の活断層が動けば揺れはより強くなり、津波が起きる恐れもあるという。継続した警戒と可能な限りの減災対策が必要だ。
関連リンク
- 気象庁「令和5年5月5日14時42分頃の石川県能登地方の地震について」
- 気象庁「令和5年5月5日21時58分頃の石川県能登地方の地震について」
- 京都大学プレスリリース「能登地方で継続する地震活動域およびその深部に電気を通しやすい領域を検出」