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国民の半数が2回接種を終え、ワクチンの高い効果と限界明らかに 「接種後感染」増え「3回目」へ議論

2021.09.15

内城喜貴 / サイエンスポータル編集部、共同通信客員論説委員

 新型コロナウイルスに対するワクチン接種が日本でも進み、全人口の半分が2回目の接種を終えた。先行した欧米での膨大なデータから、ワクチンは重症化・発症予防や死亡率低下だけでなく、感染予防もある程度期待できることがはっきりしてきた。

 その一方で2回接種しても感染する「ブレークスルー感染」例が、割合は少ないものの欧米だけでなく日本でも増えている。ワクチンが万能でないことは当初から指摘されていたが、国内では死亡例も出て、心配している接種者も少なくない。イスラエルでは3回目を打つ「ブースター接種」が既に進み、米国などでも近く予定されている。日本政府も準備を進め、対象者や実施体制などについて本格的な議論を始める。

米国で米製薬大手ファイザー製ワクチンを打つ様子(ファイザー提供)

2回完了6448万人、若者も多くが希望

 日本では9月13日集計で2回の接種者は約6448万人を数え、全人口の半数を超えた。世界で見ると総接種回数は58億回に近づきつつある。必要回数接種者は米国やインドが約1.8億人。一概に比較できないが、中国の累計接種回数は20億回を超えたと伝えられている。

 政府が13日に公表した集計によると、総接種回数は約1億4431万回。1回目の接種を終えた人は約7984万人で全人口の63.0%。2回接種完了者は同50.9%。65歳以上は約3146万人、88.0%が2回接種を完了した。一方、東京都の資料から都の例を見ると、9月初めの時点で働き盛りの40代は40%程度、20~30代はいずれも30%程度でまだ接種が十分進んでいない。全国的にも東京都とほぼ同じ傾向だ。

 東京都は8月下旬、JR渋谷駅近くに予約なしで接種できる会場を用意したが、初日当初の予約枠200人に対し多くの若者が長蛇の列を作った。「若者は接種を嫌う傾向にある」とも伝えられたが、実際は多くが希望していることを示した。

 年代別感染者数推移のデータなどから接種の効果は明らかだ。東京都の例では65歳以上の高齢者への接種が進んだ6月以降、60代以上の人が全新規感染者に占める割合は10%未満まで低下。3月は30%だったが9月7日には8%にまでに減った。一方、20~30代を中心に、40~50代と20歳未満の世代の新規感染者は増えている。

 厚生労働省は、ワクチンによって65歳以上の感染者数を7~8月に10万人以上抑制し、死者を8000人以上減少させる効果があったとの試算をまとめた。政府は「ワクチン効果は明白」として、感染者が増えている未接種世代への接種を急いでいる。

全国の新規感染者や高齢者ワクチン接種率の推移。高齢者の接種率上昇と感染者率低下に相関関係が見られる(厚生労働省提供)

内外で増えるブレークスルー報告

 ワクチンの高い有効性については国内外のデータとも一致している。しかし、その一方で接種が進むにつれて、通常「1セット2回」ワクチンを打っても感染するブレークスルー感染の報告例が増えてきた。2回目の接種を受けてから2週間程度で十分な免疫が獲得されると期待できるので、それ以降感染した場合がこの感染に該当する。

 どのような感染症に対してもワクチンは万能ではない。麻疹や水痘などは一度罹患するとまず罹患しない。「疑似ウイルス」のワクチンも1度打てば済むが、インフルエンザのようなコロナウイルスは何度も罹患する。ワクチンも何度も打たなければならない。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の場合、世界で感染拡大が長く続く中でワクチンへの期待は大きかった。それだけにブレークスルー感染の報告は多くの人を落胆させている。

 厚生労働省のまとめでは、9月1日から3日までの新規感染者総数は4万2125人。うち2回接種者も2568人含まれていた。率にして約6%。8月は数%程度だったがここに来て率がやや増えているのが気になる。同月19日には東京都内の70代の女性が2回接種しながら感染し死亡したことが明らかになった。

 だが、日本の国立感染症研究所の7月時点での分析によると、ブレークスルー感染例の約半数は無症状で、残りのほとんどは軽症。中等症は5%未満で重症例はなかったという。その後症例数が増えており、この割合が変わっている可能性もあるが、無症状や軽症が大半である点では変化なさそうだ。

「3カ月で抗体価が4分の1に」の研究報告も

 ブレークスルー感染について詳しいことは分かっていない。しかし、接種によって体内に抗体ができても、時間の経過とともにウイルスに対する抗体の量(抗体価)が下がるなど、免疫力の低下と関係があることは間違いなさそうだ。

 藤田医科大学(愛知県豊明市)の研究によれば、接種3カ月で抗体価が約4分の1に減ったという。同大学の研究チームは米製薬大手ファイザーのワクチンを接種した大学職員209人を対象に、時間の経過とともに抗体価がどう変化するかを調べた。すると、1回目接種から3カ月後の抗体価(IgG抗体)の平均値は、抗体価が高まるとされる2回目接種から14日後と比べて約4分の1になった。性別、年代別を問わず同じような低下が見られたという。

藤田医科大学の研究では、ワクチン接種3カ月でウイルスに対する抗体の量(抗体価)が年代を問わず約4分の1に減ったことが分かった(藤田医科大学提供)

 同大学の研究グループは今後も詳しい研究が必要と強調している。この研究成果は気になる結果ではあるが、「ワクチンを打っても3カ月程度で効果がなくなる」ことを意味するものではない。

 ワクチンの効果は抗体の量、抗体価だけで判断しがちだ。しかし日本の免疫学の第一人者である大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之さんら専門家はこう指摘する。

 「ワクチン接種による効果は、感染を防ぐ働きがある中和抗体による『液性免疫』だけでなく、ウイルスに感染した細胞を攻撃するキラーT細胞などの免疫細胞による『細胞性免疫』もある。免疫力賦活効果はこの2つを見る必要がある」。抗体はB細胞が作る。ウイルスなど外敵から守る免疫機構は実に複雑に巧妙にできている。

 2回接種後の感染、ブレークスルー感染で中等症や重症が少ないのは、抗体価が減ってもウイルスに対峙する抗体は残っており、細胞性免疫も活発化していることによるとみられる。

ワクチン接種により刺激される免疫機構の仕組み(大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授提供)

「ブースター接種」の必要性で意見分れる

 新型コロナウイルスに対するワクチンの効果は明らかだが、一方その限界も見えてきた。残念ながら「一度打ったら大丈夫」とは言えないことを多くの人が認識するようになった。そうした中で米国では「3回目を打つと抗体量が5~11倍以上増える」とする報告などが続いて、先進国の間で3回目接種、つまりブースター接種の機運が高まっている。同時に現時点での必要性については意見が分かれている。

 米国は接種が先行したが、接種率は50%前後になったころから頭打ちになり、感染力が強いデルタ株が未接種者の間で感染し、感染拡大を起こしている。ブレークスルー感染例も増えている。米疾病対策センター(CDC)や米食品医薬品局(FDA)は7月ごろまでは3回目接種に慎重姿勢だったが、その後その姿勢は変わりつつあり、米国からの報道では近く改めて見解をまとめるという。

米ジョージア州アトランタにあるCDC本部の入口付近。米国内だけでなく世界に感染症に関するさまざま情報やデータを公開している(CDCホームページから)

 バイデン米大統領は8月中旬、この接種を9月下旬以降に開始すると発表した。ファイザー製と米バイオ企業のモデルナ製の2回目接種から8カ月経った18歳以上が対象だという。イスラエルでは8月から3回目接種が本格化し、ドイツやフランス、スウェーデンでも実施を決めている。海外からの報道によると、ドイツやフランスでは高齢者や免疫不全の人に接種対象を限定しているようだ。

 日本でも3回目接種に向けた動きが出始めた。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は9月9日、2回接種率向上を前提に「いずれブースター接種について考えていただきたい」と政府に提案。政府は3回目接種について専門家による本格的な議論を始めることを決めた。厚生労働省関係者によると、同省のワクチン分科会で議論し、11月ごろまでに対象者や実施体制を具体化するという。

 このように先進国は3回目接種への動きが急だが、世界保健機関(WHO)は現時点での接種には反対姿勢だ。先進国の「前のめり」の動きに対してはテドロス事務局長が「実施は当面見合わせてほしい」などと再三強調している。接種が進んでいない発展途上国向けのワクチン供給が一層滞ることを懸念してのことだ。水際対策に限界がある。途上国を含めて世界的に感染が収束しないと、新たな変異株がどこかの国で登場、まん延して各国内の感染も結局収束しないとの見方は強い。

WHOは新型コロナウイルスワクチンの各国間の公平な分配を目指す国際枠組み「COVAX」を通じて発展途上国にワクチンを供給している。画像は途上国向けにも供給しているワクチンの製造現場(製造メーカー、場所など不明、WHO提供)

接種率高めることが喫緊の課題

 3回目接種に関しては、2回目までのワクチンと異なるワクチンを打つ「交差接種」の是非や可否についての議論も聞かれる。日本でも「2回目以降」について様々な議論は必要だろう。ただ、喫緊の課題は接種を希望しながら未接種の若い人や働き盛りで社会での行動範囲が広い40~50代への接種率を高めることだろう。もちろんワクチン成分に対する強いアレルギーや重い急性疾患があるなど、打ちたくても打てない人の「打たない権利」も尊重されなければならない。身体的・精神的リスクを考えて「打たない」と決めた人も含めて、そういう人への「同調圧力」は良くない。

 CDCは8月12日付で米国での接種実態に関する報告書を出している。それによると「1億6400万人以上が(2回)接種を完了したが、このうち7101人が(感染して)入院し、1507人が死亡した。ブレークスルー感染による死亡率は0.001%未満」という。米国でのデータは、ワウチンの高い有効性とその一方での限界があることを明確に裏付けている。

 日本の国立感染症研究所はブレークスルー感染について8月28日に次のような見解を公表している。

 「(海外での知見は)ブレークスルー感染があり得ること、その感染者が2次感染を引き起こし得ることを示している。ワクチン接種者は未接種者に比べて(感染力が強い)デルタ株に感染するリスク、感染しても発症するリスクは低下している。しかし感染者数が多い状況では、ワクチン接種者も場面に応じた基本的な感染防止対策の継続が必要であると考えられる」。つまり「ワクチンを打ってもこれまでの感染防止策は続けてください」ということだ。

 9月に入るころから新規感染者の増加ペースは落ちている。感染の「第5波」では全国的に医療崩壊をもたらし、「自宅療養」のまま亡くなる痛ましい例も相次いだ。誰もが現在の感染拡大が早く収まることを願っている。しかし新規感染者がほとんどいなくなる明白な「収束」は残念ながら当面難しいだろう。

 ワクチンの効果は一人一人微妙に異なる。接種は今後も進むだろうが、「2回接種」を終えた人も「ワクチンの高い有効性と限界」を正しく理解し、それぞれの生活環境を考慮したリスク管理を徹底して日々の行動を決めていく。これからはそのことが何より求められるだろう。

国立感染症研究所が分離した新型コロナウイルスのデルタ株。デルタ株は感染力が従来株の2倍前後も強いとされる (国立感染症研究所提供)

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