レビュー

即戦力ある人材育成する高等教育機関とは

2015.06.08

小岩井忠道

 政府の産業競争力会議が4日、成長戦略に盛り込む人材育成策を議論し、実社会のニーズに合わせた実践的職業教育を行う「新たな高等教育機関制度」を創設することなどを決めた。

 産業競争力会議は、安倍首相を議長に関係閣僚と民間有識者で構成されている。成長戦略のために必要とされた高等教育機関は、社会経済の変化に伴う企業からの人材需要に即応した質の高い職業人の養成を目的としている。下村博文(しもむら はくぶん)文部科学相、塩崎恭久(しおざき やすひさ)厚生労働相から同会議に提出された資料によると、新しい高等教育機関は「大学体系に位置付け、学位授与機関とすることを含めた検討(をする)」と記されている。既存の専門学校とは異なり、学士あるいは短期大学士に相当する学位を授与できる教育機関ということだ。「社会人の学び直しに関する多様な機会を提供」とも記されているので、新たなスキルを身につけたい社会人も対象にしているとみられる。

 首相官邸ホームページによると、この日の産業競争力会議で安倍首相は次のように話している。

 「近年、民間企業での教育訓練費の割合は減少傾向にある。市場の入れ替わりが激しくなる中で、これまでのように、企業任せの人材育成には限界があり、社会全体で取り組むべき課題と考える」

 さらに「『新たな高等教育機関制度』の創設」によって、「学校間の競争を促していく」とも。

 「実践的な職業教育を行う高等教育機関」が必要だとする主張は、まず昨年7月に教育再生実行会議がまとめた「今後の学制等の在り方について(第五次提言)」に盛り込まれた。「生産年齢人口の加速度的な減少が見込まれる危機的な状況にある」ことに加え、「産業構造の変化や技術革新が進む中、質の高い職業人の育成が求められる」という現状認識に立った提言だ。

 これを受けて文部科学省が設けた「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」が、今年3月に審議結果「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について」を公表した。新たな教育機関の教育内容が、より具体的に示されている。「変化の激しい現代の実社会を主体的に生きていくために必要な活用力・応用力」を重視し、「コミュニケ−ションスキル、ICT(情報通信技術)スキルなどの基本的能力」を育成する、という。

 インターンシップやグループでのPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)などを通じて、協調性や責任感などを培う必要にも触れている。

 文部科学省によると、2019年度の開学に向け、今後、法制上の措置も含めた作業が進められる、ということだ。

 新しい高等教育機関の競争相手になりそうなのは専門学校と思われるが、大学も無関心ではいられないのではないだろうか。大学のありようについては、さまざまな議論がある。近年の動きを見ると、グローバル化やイノベーションといった社会的な要請に対するより大きな貢献を求める政・官・産業界の要請に、大学側が押しまくられているようにも見える。

 今回の新しい高等教育機関創設もまた、大学に対する政・官・産業界の攻勢の一つという側面があるのではないだろうか。文部科学省有識者会議の「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について」は、新たな高等教育機関は実践的知識や技術に加え、教養教育も必要としている一方、次のようにくぎを刺している記述もある。

 「教養教育については、哲学や古典などについての素養を養うのではなく、…」

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