毎年、この時期に開いている高校同窓会の首都圏支部「東京知道会」の「総会・同窓の集い」に出る(23日)。「平成24年度は、○○(現会長の姓)体制の2年目として、さまざまな改革を実施しました」。後輩の幹事長が、1年間の活動報告の中で自賛する。懇親会に移り、運動部の後輩でもある参加者の1人が笑いながら話しかけてきた。「あの報告だと、前会長は改革をしなかった、ということですかね」
その前会長というのは、編集者である。2年前、4年間務め上げてめでたく退任した。確かに、改革など大層なことが必要だなどと考えたこともない。会報だったかに「上昇志向や管理欲は自分の業界や家庭で発揮して、同窓会に持ち込んでほしくない」なんて書いたこともある。会長として心したことといえば、会員からいただいた年会費や寄付金をいささかなりとも疑問視されるような使い方をしない、ということくらいだろうか。
そもそも長年身を置いた通信社時代でも、人を管理することの難しさは骨身にしみて分かっている。「どうしてこの程度のことができないのか」など、きついことを言ったところで、翌日から働き振りが見違えるようになる人間などいやしない。むしろ反発されるだけだ。だから、ある時期から一切、後輩たちに押し付けがましいことを言うのはやめてしまった。ほかの業界、職種の事情は知らない。しかし、記者という職種に限れば、部下の働きぶりと上司の管理欲の多寡とはほとんど関係ない、と確信する。
「総会・同窓の集い」の翌日(24日)、通信社時代の後輩2人と、三鷹市の「森の楽校」で行われた劇「注文の多い料理店」を観た。有名な宮沢賢治の童話をベースにしているが、小池博史作・演出となっているように、オリジナル作品と言える。演劇の一種だろうが、パフォーマンスと言われるジャンルに入るようだ。意味の分かるセリフはわずかでむしろ歌の方が多い。体の動きが主体の表現法は、編集者の好みに合っている。
小池博史氏は、この世界ではよく知られている「パパ・タマフマラ」(http://www.pappa-tara.com/)というグループを主宰していたが、昨年5月に解散し、今回が少人数による東京公演の最初である。「パパ・タマフマラ」の中心女優で、今回も3人の出演者の一人である南波冴さんが、一緒に観劇した後輩の1人の娘さんというつながりだ。最初から最後まで激しい動きが続く解散公演(昨年5月)に比べると幾分、穏やかとはいえ、出演者全員が体全体で表現するスタイルは健在だった。
見終わって会場の外に出たところ、通信社時代のもう一人の同僚、北嶋孝氏とばったり顔を合わせる。氏は、小劇場の演劇活動を対象にしたサイト「ワンダーランドwonderland」とメールマガジンを運用しており、劇評を書くために観に来ていたのだ。通信社をやめた後、独力でサイトを立ち上げ9年間も続けている。これも常人にはまねできそうもないが、通信社時代の生き方もユニークだった。文化部記者を長く続けた後、通信社として初めての試みであるウェブサイトの立ち上げに関わる。その後、組織再編で編集者と同じ局の一員となったのだが、最後まで管理職になることを拒否し続けた。「仕事は変わらないが待遇を管理職にしたい」。人事部から言われたので、編集者もあらためて打診してみたら、即座に断られたことを思い出す。
次の観劇予定時刻まで時間があるというので、氏にも吉祥寺の居酒屋に付き合ってもらう。
「ワンダーランドwonderland」とメールマガジンは、現在6人で編集作業に当たっているという。広告はとらない。支援会員の年会費、劇評を書くセミナー受講料で経費を賄っているというから立派だ。帰宅後、サイトを開いてみて、さらに立派さにびっくりした。トップページにずらり並んだ劇評の寄稿者名を数えたら178人。このほか小劇場関係者と見られる12人に対する長文のインタビュー記事がある。
この中の平田オリザ氏(劇作家・演出家、大阪大学教授)のインタビュー記事が実に面白い。小劇場活動を続けることがいかに大変かが詳細に明らかにされている。劇団主宰者として俳優・スタッフとの関係が生易しいものではない。無論、自由にやらせるという通信社時代の編集者のような楽は許されないことが、よく分かる。それより何より、文化庁の助成金がなければ、小劇場活動が成り立たない現実も初めて知った。
平田氏のこんな言葉が目を引く。
「芸術っていうのは、先端研究であり基礎研究であるということを粘り強く言ってきた。第二次産業を支えるのが科学であり、技術。それに年間4兆円、5年計画で20兆円出している国がですよ、どう見たって第三次産業中心の国になっていかざるを得ないのに、芸術文化に対して1,000億円とか2,000億円のオーダーでしかお金を出していないのは、施策としてバランスを欠くんじゃないか。これを、この10年ずっと愚直に言ってきた」
演劇で生きている人たちに比べると、学術、特に理系の研究者たちの方が金銭的にはまだはるかに恵まれている、ということだろうか。
小劇場レビューマガジン「ワンダーランドwonderland」