レビュー

編集だよりー 2011年9月11日編集だより

2011.09.11

小岩井忠道

 地震直後に気づいていれば、毎日、在日米大使館のホームページをのぞいていたのに…。9日、投稿・イベントレポート欄に掲載した札幌在住の成田優美さんの記事「米大使館ソーシャルメディア活用 東日本大震災で」を読んで悔やんだ。

 既にあちこちから批判されているが、福島第一原発事故に関して、東京電力、原子力安全・保安院、原子力安全委員会の情報発信はひどかった。真っ先に起こった事実をきちんと国内外に発信すべき当事者である。それぞれの組織全体に問題があったのは十分、推測できる。しかし、不思議でならなかったのは、それぞれの広報担当者はどういう思いだったのか、ということだ。広報担当というプロ意識というのはなかったのだろうか。個条書きに近いようなプレスリリースしかホームページに載せずに何の痛痒(つうよう)も感じなかったものだろうか、と。

 その時、在日米大使館はどうしていたか。大使館情報資料担当官のマイケル・ハフ氏の講演内容を報告してくれた成田さんの記事によると、大震災が起きてジョン・ルース大使と広報担当スタッフが決断したことは、ツイッターによる頻繁な情報発信だった。世界的に見るとフェイスブックの利用者が圧倒的に多いが、ツイッターの利用者の方が多い日本の実情に合わせた選択だ。ここからして日本の当事者機関との差は大きい。一方はできるだけ多くの人に分かりやすい情報を素早く提供したいと考え、実行したのに対し、他方は最小限の分かりにくい情報を出しておけばよい、という姿勢としか思えないから。

 ツイートで発信する内容で優先したのは、日本にいる米国民と米軍、日本国民を対象にした、安全と保健(健康)に関する内容だったという。グーグルドキュメントとスプレッドシートも活用し、他の国々にいるライターたちにも書いてもらい、スタッフがまとめた。1号機の原子炉建屋で水素爆発が起きた翌3月13日に発信されたルース大使のツイートは40件。3月11日に8千人だった大使のツイッターフォロワーは急速に増え、2週間で3万5千人になった。日本だけでなく、世界中からツィッターを通して、大震災における米国大使館の情報発信に対して感謝の言葉が届いた…。

 こうした記述にため息が出そうだったが、もう一つ編集者が気になったのは、「日本では、ソーシャルメディアと比較すると既存のメディアから情報を得ることが主流だ」というハフ氏の指摘だった。当事者からの情報発信が乏しいのに、新聞、放送という既存メディアの情報に頼り続けた姿勢をやんわり批判されたように思えたからだ。それは、当事者からのプレスリリースに頼っていた編集者に対する批判でもあるような気がする。

 10日、郷里の水戸市で「水戸大使の会」総会と水戸市長との意見交換会という会合があった。ふるさとを応援する「水戸大使」という役目を水戸市長から委嘱されている1人として出席する。水戸藩校「弘道館」は被害がひどく観光客を入れられず、わが母校をはじめ高校の体育館も軒並み使用不能。市役所は改修しても再使用できないほどの被害を受けており、今年6月に就任したばかりの高橋靖市長によると、同じ場所に建て替えるか、元の市中心部に建て直すか、あるいは全く別の新しい場所に建てるか、これから市民アンケートを実施して、一から検討するという話だ。

 全員発言の順番が回ってきたので、前述の在日米大使館の対応を紹介し「観光振興をはじめ、とにかく情報発信が最も大事。若い市長にはぜひともツイッターなど新しいコミュニケーションサービスを活用した積極的で頻繁な情報発信を期待したい」と偉そうな提案をした。2人ほどフォローしてくれた委員もいて、取材に来ていた東京新聞の記者も翌11日朝刊の記事で触れてくれたほどである。

 ところが、市長は先刻承知だった。考えてみれば、市長は34歳。編集者などの年代とは違い、ウェブサイトやフェイスブック、ツイッターなどは実に身近な存在、ということだろう。

 「各部署で少々、変わり者とみられているくらいの人間を集め、来年度に新しい広報戦略体制をスタートさせる計画だ」。市長の締めのあいさつを聴いて、胸をなで下ろす。詳しいことを言わなかったので辛くも恥をかかずに済んだか、と。もっともフェイスブックやツイッターについてはまだよく分からず、細かいことなど言えるはずもないが…。

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