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利害関係者はすべて推進当事者?

2011.08.01

 原子力安全・保安院が、中部電力に対しプルサーマル賛成の意見を作成し、国主催のシンポジウムで地元の参加者に発言してもらうよう依頼していたことが、分かった。経済産業省資源エネルギー庁の調査に対する中部電力の回答の中で明らかにされた。

 資源エネルギー庁の調査は、7月14日付で各電力会社に質問文書が送られたもので、過去5年間に原子力発電所に関して行われた経済産業省主催のシンポジウムで、各電力会社が社員や関連企業に第三者を装って特定の意見を表明するよう要請したことがあるかどうかを問いただしている。中部電力の場合、対象となったのは2007年8月26日に御前崎市民会館で開かれた「プルサーマルシンポジウム」だった。

 回答期限の7月29日に中部電力が公表した経済産業省への回答によると、開催1カ月ほど前、原子力安全・保安院から本店原子力発電グループ長に対し「質問がプルサーマル反対派のみとならないよう、質問を作成し、地元の方に質問していただくよう依頼すること」という口頭の依頼があった。

 これに対し、グループ長は依頼に沿って文案を作成したが「関係部署で検討した結果、特定の意見を表明するよう依頼することはコンプライアンス上問題があるため、依頼には応じられないとの結論に至り、保安院に報告した」という。

 今回の資源エネルギー庁の調査は、6月26日に開かれた経済産業省主催の九州電力玄海原子力発電所2、3号機の再起動に関する佐賀県民向けケーブルテレビ説明番組がきっかけだった。九州電力が協力会社などにネット参加を呼びかけ、玄海原子力発電所の再起動に賛成するメールを送信するよう依頼していたことが明るみに出て、マスコミに大きく報道されたことを受けて実施されたものだ。29日、調査に答える形で中部電力が4年前の事実を公表したことは、九州電力玄海原子力発電所にも跳ね返り、古川佐賀県知事が、説明番組の数日前、九州電力副社長らに「再稼働を容認する意見を経済界から出して行くことも必要」と述べた事実を30日、記者会見で認める事態となった。

 ここではっきりしたことは、電力会社に加えて、原子力発電所を抱える地元首長、さらには安全規制機関である原子力安全・保安院までが原子力発電所推進という方向を向いていた、ということではないだろうか。

 日本学術会議の東日本大震災対策委員会「エネルギー政策の選択肢分科会」委員長も務める北澤宏一・科学技術振興機構理事長は月刊誌「科学」8月号で「科学者の良心と社会への発言」と題し、次のように書いている。

 「原子力の専門家というのは、科学のある分野の専門家と本質的に異なる。専門家のすべてが推進当事者であり、第三者は基本的にいないということが問題だ」

 科学者、技術者を対象とした言葉だが、「原子力の専門家」を「原子力の利害関係者」と置き換えても通用する。最近の原子力をめぐるニュースに触れて、そう考える人も増えているのではないだろうか。

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