レビュー

編集だよりー 2011年3月3日編集だより

2011.03.03

小岩井忠道

 「なんでアタシが部長のメール打たなきゃならないの?」

 出勤時、総武線の車内中吊り広告にしばし見入って、すっかり感心してしまった。一言ありげな若い女性の表情が面白い。周囲に書かれているこの女性のつぶやきもまた。「何で部長の子どもの話を聞かなきゃならないの」「こんなに仕事押しつけて自分だけ早く帰るつもり」「もらったお菓子なんで一人だけで食べてるの」といった趣旨の不満が散りばめられている。

 「アタシが部長に耐えられるワケ」という全体の見出しも、広告主を見て納得、笑ってしまった。都心にある高級(と思われる)大規模浴場で、恐らく若い女性客を重視しているのだろう。

 「上司に辟易(へきえき)している若い女性の皆さん。仕事をさっさと切り上げ、当施設に直行し、不快な思いも汗やあかと共にきれいに洗い流しましょう!」。広告の狙いは、そんなところだろう。全車両の中吊りスペースを借り切っていたようだから、広告主と広告デザイナーの意気込み、自信のほどが分かる。

 2月12日に行われたシンポジウム「地球温暖化・少子高齢化社会に対応した新しい社会づくりを目指して」(東京大学サステイナビリティ学連携研究機構、一般社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム主催)での、あるパネリストの発言を思い出す。自身が住んでいる住宅地の自治会での経験談だ。新たに役員になった元大企業幹部の言動が皆を辟易させている。活発な意見、提案を発するのはともかく、「これは○○さんがやって、これは○○さんが…」と人にすぐ指示するからだ、という。

 人生90年という時代。今までどの国も経験したことがない高齢社会をいかに生きるか、が問われている。いつまでも管理職意識、管理欲を引きずっていたら近所の人たちともうまくやっていけないではないか、という警告だ。

 人に指示したがる、人を管理したがる欲求というのは、なかなか厄介なものに見える。船で外国の各地を訪問して海外との親善に努め、併せて自己の研さんも図るNG0の活動に参加した人の話を思い出す。昔、聞いた話だから今もそうかどうかは分からないが…。この人は長く映画の世界にいた方で、洋上カルチャースクールの講師として乗船したという。ボランティアだから報酬はなく、その代わり船賃(食事代も?)は免除という待遇だ。

 カルチャースクールの講師以外のボランティアもいるが、長い共同生活だから一般参加者にもいろいろな役が振り当てられるらしい。風紀係のような役もあるそうだ。こういう役を与えられると、途端に警察官的な役割を見事に演じる。陸上ではとても品行方正だったようには見えない若者が、とそのカルチャースクール講師が笑っていた。

 大きな組織で地位が高まっても偉ぶらない。正規雇用だからといって非正規雇用者に偉そうにしない。そんな人の方が、そうでない人より多いとは思うが、果たしてこの中吊り広告の効果はどうだろう。どこかメディアの記者が取材して記事にしてくれないだろうか。

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