中学時代の経験からいうと、競技人口が最も多かったスポーツは野球とバスケットボールだった。北海道などごく一部の地域を除けば、どこも同様だったのではないだろうか。とにかく、野球とバスケットはチーム数が多いため市内大会で優勝ないし準優勝しないと県北大会に出られず、その県北大会で勝ち残った2チームしか県大会には出られなかった。他の競技は市内大会で一定の成績を挙げれば即、県大会に出場できたのにである。
大学は分からないが、高校の競技人口も同じようなものだったと思われる。実際、笹川スポーツ財団が出している「スポーツ白書(2006年)」の種目別スポーツ人口にそれを裏付ける数字がある。10歳代のスポーツ実施率でバスケットボールは28.6%という高率で、これより上はサッカーの29.0%のみだ。消耗品はボールと個々人のシューズ、ショートパンツ程度。バスケットコートがない中学校などまずないだろうから、サッカーと並んで実に金のかからないスポーツだ。10歳代の競技人口が多いのは当たり前と言える。
昔から不思議でならなかったのは、新聞や放送がなぜ競技人口に無頓着なのか、ということだ。野球は自分でプレーするだけでなく見ても面白いし、そもそも青空の下、広々としたグラウンドでできるという魅力も加わって、人気があるのはよく分かる。東京オリンピックで女子チームが優勝した効果は絶大だから、バレーボールが日本で一気にメジャースポーツにのし上がったのも納得する。
しかし、野球やバスケットに比べるとまともに練習をしている選手の数がはるかに少ないと思われるスキーやアイススケート、あるいはラグビーの方が昔から新聞紙面や放送で大きく扱われるのは一体どうしてか。スキーのジャンプやスピードスケートで同じ選手が何十年もトップクラスにいてオリンピックに4回も5回も出場するというのも、競争相手が少ないつまり競技人口が少ないからだろう。新聞や放送で大きな扱いを昔から受けているのは、種目の少ない冬季オリンピック種目であるということ以上に、野球のないシーズンに行われるので日本のメディアにとってスポーツ面、番組を埋めるのに都合がよかった、という程度の理由ではないだろうか。
前述の種目別スポーツ人口によると、10歳代でスキーをやっている人は11.8%、アイススケートは5.0%となっている。これはサッカー、バスケットに比べるとだいぶ少ない数字だが、それでも実際より多すぎはしまいか。クラブ活動で汗をかいている人より、冬休みにスキー場やスケート場で年に何回か楽しんだという人が多く含まれているような気がする。ラグビーの1.75%というのは、実態に近い数字に見えるが…。
競技人口と新聞、放送の扱いにみられる相関関係のなさは、編集者が実感しているだけでも、半世紀以上続いている。だからだろうか。バスケットボールの新聞記事が、どうにもつまらないのは。扱いが小さければ記者だって気合も入らないだろうから。
暮れからこの3連休の間に、全国高校バスケットボール選抜優勝大会と全日本総合バスケットボール選手権大会の何試合かを試合会場やテレビで観戦した。全日本総合女子の優勝は、JXサンフラワーズである(1月10日)。高校を卒業したばかりの渡嘉敷来夢選手が191センチという長身にもかかわらず軽快な動きをみせるのに驚いた。これまでの日本人選手には見当たらない逸材であることは間違いなさそうだ。ウィキペディアで父親が米国人と日本人のハーフと知り、合点する。父親も196センチの長身という。本人は高校(桜花学園)時代に既に大活躍しているが、小学時代に走り高跳びで全国優勝しているというから、背が高いだけではなく運動能力自体も並外れているということだろう。
しかし、翌日の新聞記事には、やはりがっかりした。記事が物足りなかった理由は、これまで日本にはいなかったような有望選手だからこそ、もっと書きようがあるのでは、ということだ。女子バスケットボールは、男子ほどひどくはないが、世界のトップクラスとはだいぶ差がある。編集者の見るところでは、特にセンタープレーヤーが決定的に見劣りするのではないかと思われる。女子バスケットボール日本リーグが前身の日本リーグ時代に認めていた外国人選手を今排除しているのは、確か日本人選手、特に長身選手が育たないという理由だった。数少ない長身選手がこれ幸いと長身選手の少ない国内チーム相手にいくらシュートを入れてもそれだけの話ではないだろうか。身長、跳躍力、相手によいポジションを取らせない圧力いずれをとっても上の選手がいくらでもいる海外チームに対しても通用するセンターを育てないことには、アジアでも通用しないだろう。
渡嘉敷選手についていえば、決勝戦の試合で「ゴール下は任せて」というプレーは期待するほど多くはなかった。ゴールにできるだけ近く、さらにゴールを背にした形でパスを待つ。そんなプレースタイルでないと信頼できるセンタープレーヤーとは言えまい。ゴールから離れたところでパスを受ける場面がしばしばあり、むしろ183センチの諏訪裕美選手の方がセンタープレーヤー的役割を果たす場面が目に付いたくらいだ。もっともJXのホームページを見ると諏訪選手がC(センター)で渡嘉敷選手はCF(センター・フォワード)となっているから、諏訪選手がセンターの役割を担っているのかもしれない。しかし、そうだとすると渡嘉敷選手はセンターとして大成しにくい、ということにならないだろうか。
とまあ、この程度のことは中学、高校でのプレー経験しかないような編集者でも考えるわけだが、新聞各紙の記事は、漠然と渡嘉敷の活躍をたたえる記述ばかりに見えた。
暮れに観た全国高校バスケットボール選抜優勝大会の決勝戦(12月29日、東京体育館)は、北陸高校が悲願の初優勝を遂げた。ディフェンスがよかった、という各紙の記事はその通りだろうが、編集者には相手の福岡第一高校により大きな敗因があったように見えた。長島エマニエル選手のシュートがあまりに入らなすぎたのである。アフリカ系の選手らしく、動きが他の選手とはだいぶ異なる。柔らかい身のこなしでディフェンスを苦もなく振り切り、躍動感あふれるジャンプシュート。そんなプレーが何度も見られたのだが、とにかくシュートが外れるケースが多かった。
この選手の出来が、試合結果を左右したのは明白。北陸高校側に長島選手を抑える特に対策があったのか、単に長島選手が不調だったのか試合を見ているだけでは分からなかった。しかし、各紙の記事がそんなことに全く関心がないとしか思えなかったのが、何とも腑(ふ)に落ちない。
10日に行われた全日本総合バスケットボール選手権大会男子の決勝は、アイシン対パナソニック。終了間際、アイシンが思わぬもたつきを見せて延長に入ったが、やはりパナソニックが勝つのは無理というものだろう。センタープレーヤーの働きが悪すぎる。この選手を最初から最後まで使い通さなければならなかったということは、控えのセンタープレーヤーがいないということなのだろう。もっともアイシンのもたつきも、これまた決定的な力を持つセンターが不在だったからのようにも思える。
米バスケットボール協会(NBA)の昨年のドラフト結果をウェブサイトで探してみた。30チームが1巡目に指名した選手のポジションを見るとセンターが3人しかいない。本場でも優秀なセンタープレーヤーはそうそういない、ということだろう。日本のバスケットボールも外国人の遺伝子を積極的に招き入れて世界に通用するセンタープレーヤーを育てることが急務ではないだろうか。とっくに実行済みの大相撲のように…。
他の選手とは一味も二味も違う渡嘉敷選手や長島選手の動きを思い起こし、あらためて感じた。