「入り鉄砲と出女」。甲州街道の小仏関所跡で見慣れない記述を見つけた。通信社時代の仲間で楽しんでいる甲州街道歩く会はこの日、JR中央線高尾駅から相模湖駅までというコースだった。歩き始めるとすぐに雨がパラパラ降り出すあいにくの天気だ。高尾駅から2キロ近く歩くと、小仏関跡という八王子市教育委員会の表示に出合った。
小仏関所は、東海道の箱根、中山道の碓氷と並び、関東の3関といわれたとのこと。その表示の中に「特に『入鉄砲に出女』は幕府に対する謀反の恐れがあるとして重視し、厳しく取り締まった」というくだりがあったのだ。大学入試の社会は「世界史」と「日本史」で取ったのだが、まるで覚えがない。
「入鉄砲はなんとなく分かるけれど、出女と謀反というのはどんな関係があるの?」。同行の元外信部記者である同期生に尋ねた。「参勤交代で人質にとっている(大名の)妻女が江戸からいなくなることは、おかしな動きがある前兆だ、と警戒したわけよ」。さすが有名大学の文系学部出身である。たちどころに解説してくれた。
しばらく進むと見上げるような高さを横切る工事中の高架橋が見えてきた。もうすぐ真ん中部分で接合するところまで来ている。中央自動車道と北側の部分では既に接続済みの首都圏中央連絡自動車道だ。こんな工事が日本のあちこちで行われてきたのだ、と想像すると、道路予算がいかに膨大か実感できる。
さらに進むと並行して走る中央自動車道がすぐ右手に見えてきた。甲州街道はJR中央本線と中央自動車道に並行し、ある地点からそれぞれのトンネルの真上に近いところを通っているようだ。中央自動車道を走る車のスピードが明らかに遅い。フムフム、小仏トンネルの八王子側入口が近いのだな、と想像する。
中央自動車道の小仏トンネルが渋滞の名所として有名なことは、6日からインタビュー記事の掲載を始めた西成 活裕・東京大学先端科学研究センター 教授にたっぷり話を聞いている。小仏トンネルの渋滞は個々の運転手がスピードを加減するだけで解消できることを数学的に解き明かし、実際に現地実験で実証して見せた方だ。詳細はインタビュー記事の3回目で読んでいただくとして、渋滞の原因の一つは、トンネル入口までの道が上りになっていることによるという。
トンネル内は平坦だが、われわれはこれからが本格的な上りだ。事前に聞いていたように、なかなかの道である。それでも東京都と神奈川県の境、小仏峠を上りきるまでの道はまだよかった。その後の下り坂は、人が通るよりは単に水が流れる筋ではないかと思われるような細道だ。雨だから滑るし、傾斜も結構きつい。登山靴を履いてきたのとスティックを持ってきた判断を喜ぶ。
先頭近くを歩いていた年配の先輩が、途中から牛歩のようになってしまい、行列が車の渋滞と似たような状態になってしまったのも致し方ないということだろう。