奈良先端科学技術大学院大学が、熱帯の耕作不適な地に育つ植物「ヤトロファ」をバイオ燃料の原料として活用する国際プロジェクトをスタートさせた(1日ニュース「熱帯植物のバイオ燃料化国際プロジェクト開始」参照)。
バイオ燃料については、サトウキビからエタノールをつくり早くから自動車の燃料に利用しているブラジルの例が、よく知られている。米国のブッシュ政権が脱石油政策としてバイオエタノール生産に力を入れ始め、それが世界の食糧・飼料需給へ大きな影響を及ぼしていることもよく知られる。
7月に経済協力開発機構(OECD)が公表した報告「OECD諸国のバイオ燃料政策は高コストで非効果的」は、次のように指摘している。
「米国、カナダ、欧州連合(EU)におけるバイオ燃料の供給・利用への政府支援は、2006年の年間約110億ドルから2015年には年間約250億ドルへと増加する見込み。報告書の推計によれば、バイオ燃料は、1トンの温室効果ガス(二酸化炭素換算)を削減するために960〜1,700ドルの支援コストがかかる」
「現在のバイオ燃料支援措置のみによる価格上昇への影響は、今後10年間で小麦は約5%、トウモロコシは約7%、植物油は約19%と予測される」
「世界の粗粒穀物生産の13%、植物油生産の20%が、今後10年でバイオ燃料生産へとシフトする可能性がある(2007年はそれぞれ8%と9%)」
算定の根拠として挙げられているのが、米国の2007年エネルギー自立・安全保障法と欧州連合(EU)の再生可能エネルギー指令案だった。
バイオエネルギーが、食糧問題と密接な関係にあることは、一般にも理解されつつあると言えるのではないか。では、もう一つの問題はどうだろうか。植物を育ててそれからバイオ燃料を得ることによるエネルギー収支と、二酸化炭素(CO2)削減効果はいかばかりか、ということだ。
再びOECD報告書から引用する。
「サトウキビ−主にブラジルで使用されている原料−から生産されるエタノールは、温室効果ガスを化石燃料に比べ80%以上削減する。しかし、欧州や北米で使用されている原料から生産されるバイオ燃料は、排出量の削減がそれよりはるかに少ない。小麦、テンサイ、植物油から生産されるバイオ燃料は、排出量の削減が30〜60%を超えることはまれで、トウモロコシから生産されるエタノールも一般に排出量の削減は30%未満。結局、現在のバイオ燃料支援策を続けても、輸送用燃料からの温室効果ガス排出量は2015年までに0.8%しか削減されない」
では、奈良先端科学技術大学院大学の国際プロジェクトは、どのような意義があるのだろうか。食糧問題との摩擦はまずなさそうだ。CO2削減効果を評価する指標として同大学は「環境二酸化炭素の低減効率」を示している。サトウキビから得られる炭水化物を最終的にエタノールするまでの発酵、精製過程で大気中に放出される二酸化炭素量を差し引くと、1ヘクタールあたり0.96トンのCO2を回収したことになる(これは元々大気中にあったCO2だから、燃料として使い最終的に大気中の放出されてもCO2を増やしたことにならないということだろう)。
これに対し、熱帯植物「ヤトロファ」の場合は、「現状ではヘクターあたり1.3トン、本プロジェクトの目標値達成後では3.6トンのCO2回収となり、低減効率は相当なもの」ということだ。
もう一つ挙げられている指標に「バイオ燃料中のエネルギー/生産に要するエネルギーの比率」がある。この数値が1では、わざわざバイオ燃料をつくる意味はないから、1より大きければ大きいほどよいということになる。
米国のトウモロコシの場合は、1.3-1.8程度、ブラジルのサトウキビからのエタノール生産の場合は、8以上という数字で、ヤトロファからのバイオディーゼル燃料は、米国のダイズ油からディーゼル燃料をつくる際の数値、3.7のさらに数倍、と奈良先端科学技術大学院大学は見込んでいる。
食糧と競合しないバイオ燃料開発は、今年度からスタートした科学技術振興機構の地球規模課題対応国際科学技術協力事業でも課題の一つになっており、これまで利用されていなかったサトウキビ廃棄物からエタノールを生産するブラジルとの共同研究が動き出している。
食糧にならない未利用バイオ資源から、エネルギーをつくり出そうという狙いは同じといえる。