レビュー

基礎科学振興の鍵を握るのは

2008.11.04

 金澤一郎・日本学術会議会長が、10月31日付で「我が国の未来を創る基礎研究の推進に関する会長談話」(ノーベル物理学賞及び化学賞の受賞に関連して)を発表した。

 「ノーベル賞受賞を契機に、国民の間で、30年〜40年後の将来を見据えた投資として基礎研究の重要性が広く解釈され、我が国が真の文化国家として、世界的な学術の発展及び人類の福祉の向上に貢献していくことを心から希望します」という文で結ばれている。

 今回の日本人研究者たちの授賞対象が「いずれも30年以上も前に行われた純粋に基礎的な研究」であること。それらが「30歳代という若い時代に自由な発想に基づき知的創造活動を行える環境にあったことが重要な要素となっている」こと。結語に至るまでにこうした注意喚起をし、さらに「基礎研究及びそれを担う大学・研究機関自体がその基本的な機能を果たす上でさえ深刻な状況に直面」している現状に強い危機感を表明している。

 この種の主張、訴えは、これまで何度も繰り返されたことだろう。日本学術会議会長がいま、あらためて談話を公表する背景には、国の予算が厳しさを増す中で科学技術に対する重点配分が優先されて来た結果、多くの基礎科学分野に十分な研究費が回らなくなっている現実があると思われる。

 同じ日付(10月31日)の毎日新聞朝刊「論点」欄で評論家の山形浩生 氏が「文化勲章の不見識」を痛烈に批判している。2002年にノーベル化学賞を受賞し、文化勲章も受章した田中耕一 氏の例を挙げ「ノーベル賞がなければ、田中耕一 氏は生涯文化勲章とは無縁だっただろう」と書いている。確かにノーベル賞受賞が決まったために急きょ文化勲章が授与された例は、1981年の化学賞受賞者、福井謙一 氏以来、ことしの益川敏英、小林誠、下村脩 氏まで7 氏を数える(7 氏のうち江崎玲於奈 氏だけは文化勲章受章がノーベル賞受賞の翌年だが、残り6人は同じ年に受章)。物理学、化学、医学生理学賞受賞者で受賞以前に文化勲章を授与されているのは、湯川秀樹 氏から、今年受賞の南部陽一郎 氏まで6人だけである。

 3日行われた文化勲章授与式に、下村脩 氏と伊藤清 氏(2006年第1回ガウス賞受賞の数学者)は欠席だった。「文化の日だけ、基礎科学に光が当てられても」と思ったのが、欠席の理由ではないだろう。ただ、受章者たちの記念写真を新聞などで見て、感じた人はいなかっただろうか。基礎科学に十分な研究環境が用意されるかどうかは、詰まるところ、日本国民の多くが文化国家を望むかどうかに掛かっている。文化の日だけでなく日ごろから、と。

関連記事

ページトップへ