レビュー

日本学術会議への期待

2008.10.21

 日本学術会議の会長に再任された金澤一郎 氏が、同会議のホームページで決意を表明している。21期の大きな課題として「学術の世界から今後20〜30年先を見通した長期展望を議論する。その成果は、『日本の展望-学術からの提言』として世に問う」と。

 既にこの作業の中心となる「日本の展望委員会」が発足しており、金澤会長が自ら委員長に、副委員長に広渡清吾 氏・第一部部長(東京大学社会科学研究所 教授)、幹事に唐木英明 氏・副会長(東京大学 名誉教授)、海部宣男 氏・第3部会員(放送大学 教授)以下、日本学術会議の要職にある研究者がすべて委員に名を連ねているといってよい。アカデミズムが、もっと国内外の社会のありように積極的にかかわる必要があるという認識が根底にあることが伺われる。

 金澤会長は、日本学術会議ホームページ上の会長メッセージで、日本学術会議の使命として「社会のための科学の推進(Science for Society)」と、「科学のための科学の推進(Science for Science)」を挙げている。前期の具体的な社会的貢献としては、「脱タバコ社会の実現」に向けた要望や、「生殖補助医療に関する課題」に対する審議結果の回答を挙げた。さらに、「科学のための科学の推進(Science for Science)」の具体的な活動としては、「我が国の未来を創る基礎研究の支援充実」を求めた提言を「極めて意義深いもの」と評価している。

 日本学術会議に対しては、行政から独立した第3者評価機関として大きな影響力を持つことへの期待が大きいと思われる。実態はどうか。金澤会長が評価する前述の「我が国の未来を創る基礎研究の支援充実」を求めた提言の中に以下のような記述がある。

 「科学技術の政策を決定する場合、科学者がコミュニティを代表して施策立案に参加したり、それを事前に評価するシステムが実質的に存在しないことが、我が国の最大の特徴であり、欠陥でもある」

 「科学技術政策は実質的には科学者コミュニティの手を離れたところで決定されている、というのが我が国の実情である。審議会の委員会等に招かれたとしても、個人としての意見を述べるのみであり、「参考意見」といった程度にしか関わりを持つことが出来ないのが現状である。従って、科研費等の個別課題の審査は別としても、基礎研究費、基盤的経費、大学・研究機関の研究環境整備、等の施策立案・評価に科学者コミュニティが関わり、それが適切に政策に反映される仕組みは、実質的に機能していない」

 総合科学技術会議の議員や事務局などからは、反論があるだろう。だが、日本学術会議は「科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う『特別の機関』として設立された」科学者コミュニティを代表する機関である。その提言を軽く見ることはできないはずだ。

 金澤会長自らが委員長となって発足した「日本の展望委員会」と14もの分科会の構成メンバーをみれば、検討結果である「『日本の展望−学術からの提言』は、相当な内容になると想像できる。問題はそれが、現実の政策に活かされるかどうかだろう。「科学技術政策は実質的には科学者コミュニティの手を離れたところで決定されている」と日本学術会議自体が見る現実をいかに是正していくのか。こちらについても、組織を挙げた奮闘を日本学術会議に期待する国民は少なくないのではないだろうか。

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