レビュー

持続可能な世界トップクラス研究拠点とは

2008.07.04

 「いかにして欧州の世界トップクラス研究拠点は形成されたか」を探る科学技術政策研究所の調査報告が公表された。

 優秀な研究者と研究資金をいかに集めるか。詰まるところ、欧州の名だたる研究機関もこの目的のためにさまざまな工夫、努力を重ねているということだが、先行する米国に対抗するため2つの面で欧州がより積極的に取り組んでいることを報告は挙げている。

 「外部から優れた人材を登用するための柔軟な研究交流制度」と「優れた人材を集めるための条件として、生活面での支援を含む受け入れ環境の整備」である。後者の具体例としては、マックスプランク神経生物学研究所や欧州分子生物学研究所(ハイデルベルグ)で、子弟の養育を支援する仕組み(child care)が整備されていることが紹介されている。

 日本の場合、優れた研究者を集める努力を欧州以上にしなければならない、ということが報告から読み取れる。欧州の取り組みは、日本の関係者たちも当然、念頭に置いていることだろうが、実行となると容易ではないだろう。

 もう一つ報告書が指摘していることを紹介したい。世界トップクラスの研究拠点であり続けるために、どのような工夫がなされているかについてだ。

 「特定の領域が非常に重要になる(重要になりすぎる)時が、その領域から去る時だ」。ナノテクノロジー・材料分野のトップクラス研究拠点とみなされている英国ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所のポリシーという。トップクラスの研究拠点は、そこに「トップクラスの研究がある」ということ。そしてそれは「トップクラスの研究者がいる」ことであり、トップクラスの研究者を集めるには「Not Yet Visibleな研究領域を見つけ出す」ことが最も重要なポイントになるとの考えに基づく。

 最近のこうした取り組みには「Physics for Medicine」を対象とした新たな研究センターの立ち上げがあるという。ケンブリッジ大学は、昔から物理学が強く、物理学の強みを活かして生物学の研究実績も挙げているが、医学は10-15年前までほとんど研究対象とみなしていなかった。

 ドイツのフラウンホーファー・コンピューターアーキテクチャー&ソフトウェアテクノロジー研究所の場合、パーマネントスタッフの割合を一定以下にしている。一つの領域に固執していると、トップ拠点としての研究成果を生み出し続けることはできない、という考えに基づいている。実際に今のディレクターが就任して、コンピューターアーキテクチャー中心からソフトウェアへと研究領域が大きくシフトしたということだ。

 世界トップクラスの研究拠点作りは、日本でも動き出している(2008年6月25日レビュー「『目に見える研究拠点』のすべり出しは」参照)。まず世界のトップクラスの研究者を集めることでそれぞれ苦労していると思われるが、世界トップクラス研究拠点であり続けることは、拠点立ち上げ以上に「Not Yet Visible」な難題のように見える。

関連記事

ページトップへ