インタビュー

第2回「基礎研究に国境なし」(岸 輝雄 氏 / 物質・材料研究機構 理事長)

2008.05.12

岸 輝雄 氏 / 物質・材料研究機構 理事長

「世界トップレベルの材料研究拠点を」

岸 輝雄 氏
岸 輝雄 氏

ものづくり立国に直結する先端分野としてナノテク・材料への期待は大きい。第3期科学技術基本計画でも、ライフサイエンス、情報、環境とともに、重点推進分野の一角を占めている。日本の材料科学の研究レベルが世界に誇るレベルにあることは、論文の被引用数データからも明らかだ。日本の物質・材料研究の拠点というだけでなく、世界のトップレベルの研究拠点を目指す物質・材料研究機構の岸 輝雄理事長に材料研究の方向を尋ねた。

―一昨年9月に物質・材料研究機構は文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」(注)の一つに選ばれました。他の4拠点が、東北大学、東京大学、京都大学、大阪大学とすべて国立大学だった中で唯一、独立行政法人研究機関である機構が選ばれた理由は何でしょう。

「世界トップレベル研究拠点プログラム」というのは、もともとは5つの大学を選ぼうということだったと思います。しかし、独立行政法人も申請してみなさいということなので、出してみたら通ったということです。大きな研究費が出ますから、大いに喜んでいます。なぜ、選ばれたかですが、ナノテク・材料研究における今までの実績で、論文数、被引用数が急に増えていることが審査委員に評価されたのではないでしょうか。

さらに国際的な活動の実績が認められたのではと思います。もともと「世界トップレベル研究拠点」は、WPI(ワールド・プレミア・インタナショナル)というように国際が重視されているプログラムです。

物質・材料研究機構は、基礎研究および基盤的研究開発を目的とすることが明記されています。基礎研究には国境がないというのが私の考えですから、知的財産を重視、配慮しながら国際的に通用する研究をやるということで研究計画も立てています。文部科学省の科学技術振興調整費で2003年に、「若手国際研究拠点」というものを始めました。5年間で27カ国80人の優秀なポスドクを集めました。高給を払いましてね。世界から集まった若手研究者が自立して研究活動を行い、斬新な研究を生み出してもらうのが狙いでしたが、優れた研究成果を数多く発信することができたと考えています。

もうひとつの国際化重視の取り組みとして「世界材料研究所フォーラム」というのも始めました。物質・材料研究をリードする世界の代表的な機関は全部入れています。大学を含めると教授が勝手に動いてしまう恐れがあるので、大学は入れていませんが(笑い)。各機関における研究動向に関する情報交換と国際連携の強化を目的としています。

こうしたこれまでの国際的な取り組みが評価され、「世界トップレベル研究拠点プログラム」の拠点に選ばれたと考えております。国際的環境という面では、選ばれた他の4大学より、われわれの方が抜群に進んでいると思っています。国内外の第一線の研究者を招へいすることに加え、英語を使用というのが拠点の条件になっており、われわれは「若手国際研究拠点」で十分、実績を積んでいます。

―国際的環境といえば、機構の位置するつくばという場所も有利だったのではないでしょうか。

東京は物価が高いし、家も見つけにくい。落ち着いて研究するには、つくばは悪くありません。ただ、日本人は東京が好きという面があります。これも「つくばエクスプレス」の効果は大きく、いなかのよさを残しつつ、完全に東京圏になりました。世界を見渡しても、似たような立地条件の立派な研究機関があります。ロンドンから約90キロの所にあるオックスフォード大学、ニューヨークから約100キロのプリンストン大学などです。さらにつくばには、工学の基礎をやっている産業技術総合研究所があり、筑波大学の工学部や医学部も力を付けてきています。お金さえつけば、つくばの実学はどんどんよくなるでしょう。

ただ、産業は東京の西側に集中している現実があります。サイエンスシティとしてはうまく行きそうだが、イノベーションを生み出すシティになるかどうか。これがこれからの課題だ、と思っています。

(注)「世界トップレベル研究拠点プログラム」
世界から第一線の研究者が集い、異分野を融合させて新しい学問分野を創造し、世界的に高い評価を受けるような優れた研究成果を生み出す拠点づくりを目指している。米国スタンフォード大学のBio-X、マサチューセッツ工科大学のメディアラボ、ハワード・ヒューズ医学研究所のジャネリア・ファーム、英国の分子生物学研究所がモデルとして挙げられている。1拠点あたり年間5~20億円程度の支援が10年間(特に優れた拠点についてはさらに5年間延長を認める)約束される。物質・材料研究機構は「持続可能な発展」に資する新規材料の開発を推進する拠点として選ばれた。

世界材料研究所フォーラム(2007年6月)参加者
(提供:物質・材料研究機構)
世界材料研究所フォーラム(2007年6月)参加者
(提供:物質・材料研究機構)

(続く)

岸 輝雄 氏
(きし てるお)
岸 輝雄 氏
(きし てるお)

岸 輝雄(きし てるお)氏のプロフィール
1939年生まれ、69年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学宇宙航空研究所助教授、88年東京大学先端科学技術研究センター教授、95年同センター長、97年通商産業省工業技術院産業技術融合領域研究所所長、2001年から現職。日本学術会議会員(03~05年は副会長)。専門は材料(金属、セラミックス、複合材料、スマート材料)、特に金属材料の微視破壊に関する研究、セラミックス、複合材料の高靭化を主な研究テーマとする。02~07年文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター センター長。

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